第10話「あ、ああ、その通り、問題は3年前だ」

地獄の訓練に備えて準備。

自主トレーニングと鍛錬、魔物等の勉強、必要物資の買い物等々、

そんな日々を繰り返し、7日目の朝……


宿の前で待っていると、遠くから車輪の音が聞こえ、黒塗りの馬車がやって来て、俺の前に止まった。


御者台に乗っているのは、グランシャリオメンバーのひとり、

日焼けした浅黒い褐色の肌で、スキンヘッド。

顔は超こわもて、感情をあまり表に出さない。

人間離れした、魔物オーガのような、たくましい男。

盾役タンクを務める屈強な戦士のバスチアン・ガスパルさんだ。


しかし、バスチアンさんのいで立ちだけは、先日会った時の革鎧姿とは、

全く違っていた。


なんと!なんと!

上半身はぴちぴちのランニングシャツ一枚、

下半身は、『もも』までしかない超短パンだけ。


薄着だから、全身「むっきむき」の筋肉男さがなおさら目立つ、目立つ。


バスチアンさんは俺を眺め、ぼそっと言う。


「……エルヴェ、扉を開け、さっさと乗ってくれ」


初対面の際、あいさつした時に感じたが、

バスチアンさんは、基本的に無口。

必要な事を、ぶっきらぼうにしか言わない。


ちなみに荷物は背中にしょったディバックに詰めてある。


俺が扉を開けると、車内は結構広かった。

どうやら俺のピックアップが一番最後のようで、既にふたりの男女が乗っていた。


ふたりの男女とは当然同期。

ドラフト第2位、ストロベリーブロンドの魔法使い少女シャルロット・ブランシュさん。

ドラフト第3位、元騎士見習いで、現在は戦士のフェルナン・バシュレさん。


うっわ!

俺はちょっちびっくりした。


ふたりは暗そうな陰キャラ宜しく、俺が扉を開けても反応せず、

無言でうつむいていたのである。


なんかふたりともどよ~んとしていて、元気がなく、顔色が青ざめていないか?


だが俺は構わず、いつもの通り元気よくあいさつする。


「皆さん! おはようございまあす!!」


対して、シャルロットさんは蚊の鳴くような声で、


「……おはようございます」


と返事をし、フェルナンさんは、


「………………………………」


あいさつを戻さず無言。


おいおいおい!

これじゃあ、闘技場で会った時と同じパターンじゃん。

全然反省してないのかよ?

朝一番でこれじゃあ、先が思いやられる。

あいさつくらい、ちゃんとしてくれ。


苦笑した俺だが、ここで言い争いしても不毛である。

俺自身には全くメリットもないし。


なので俺は、


「失礼しま~す」


空いていた席に座り、扉を閉めた。


と、同時に御者役のバスチアンさんが合図をしたらしく、馬車は再び動き始める。


座ってひと段落し、「ふ~」と息を吐いた俺は、シャルロットさん、フェルナンさんへ、


「どうかしましたか?」


と、笑顔で尋ねたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ガトゴト音を立てて走る馬車の車内。


沈黙が包んでいた。


しばし経って、俺の問いに対し、答えてくれたのは、

先ほどかろうじてあいさつをしてくれたシャルロットさんである。


「エルヴェさん、どうもこうもないわ……」


え?

どうもこうもない?


どういう事ですかね。


俺が問いかけるような目で見れば、シャルロットさんは更に言う。


「フェルナンさんから、私たちが受ける、グランシャリオの研修の内容を聞いたのよ。……とんでもないわ、まさに地獄よ」


俺達が受けるグランシャリオの研修の内容がとんでもない?

まさに地獄?


そうか!

ふたりが落ち込んでいるというか、元気がないのは、研修の内容がとんでもなく厳しいって事か。


でもそれは、前々から噂もあって想定内だし、

グランシャリオにドラフト指名された時点で覚悟していたはずだ。


まあ、「研修に伴う訓練は絶対に厳しいだろう」というだけで、

俺たちの誰もが、想像の域を超える事は出来ないけどね。


しかし、フェルナンさんから聞いたという事は、何か情報ソースがあるという事。


早速聞いて確認しよう。


俺は先ほどから黙り込み無言のフェルナンさんへ話しかける。


フェルナンさんは、俺とシャルロットさんの会話を聞いているはずだから。


「あの、フェルナンさん」


「………………………………」


相変わらず、フェルナンさんは反応しない。

無言のまま。


「俺とシャルロットさんの話、聞いていましたよね?」


「………………………………」


「フェルナンさんが耳にした、グランシャリオの研修に関してって話、申し訳ありませんが、俺にも教えて貰えますか?」


「………………………………」 


何回か無言を貫いたフェルナンさんであったが、ようやく反応し、

俺をじっと見た。

そして言う。


「………分かった、話そう」


「お願いします」


「グ、グランシャリオは一昨年、昨年とドラフト会議を棄権した」


「ですね。でもその理由は、指名するに値する新人冒険者が居なかったと、ローラン様はおっしゃっていましたね」


「あ、ああ、その通り、問題は3年前だ」


フェルナンさんから3年前と言われ、俺は記憶をたぐった。


「ええっと、フェルナンさん。確か3年前グランシャリオは、10年にひとりの逸材と巷で言われた新人冒険者を第1位指名したと聞いていますよ」


「ああ……」


「それで、3年前グランシャリオが指名したのはその人のみ。でも結局、その人も入隊しなかったともね」


俺の言葉に大きく頷き、フェルナンさんは言う。


「ああ、エルヴェ君の言う通りだ。そして俺はグランシャリオから3年前、第1位指名された人から、研修の内容を聞きだしたんだよ」


フェルナンさんは、まるで絞り出すように、言葉を吐き出したのである。

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