第9話「いくら不安に思っても、悩んでも仕方がない」

冒険者ギルド主催『冒険者クラン新人選択希望会議』

……通称『ドラフト会議』が終わった。


……という事で本日のスケジュールは終了して、俺は泊っている安宿へ戻る。


俺が泊っている宿は朝食しか出ない。

なので、途中、安くて美味い露店の弁当を買って帰った。


粗末な部屋へ入り、ひと息つくと、弁当を食いながらお茶を飲み、

俺は記憶をたぐり、物思いにふける。


今日はこれまで生きてきた16年、人生最大のターニングポイントとなった。


何故なら!

ランクFの新人冒険者、俺エルヴェ・アルノー、16歳。

スフェール王国貧乏騎士爵アルノー家の3男坊は、なんとなんとなんと!!!!


マエストロこと、ローラン・ケーリオ様率いる王国ナンバーワン冒険者クラン、

グランシャリオから、予想だにしない栄光のドラフト第一位指名を頂いたからだ。


その後、ギルド運営本部の担当職員ボワローさんの案内で、グランシャリオの控室へ。


ローラン様達、グランシャリオのメンバーへあいさつ。

ついでに先に来ていた同期ふたりにもあいさつ。


同期ふたりに悪意の視線を向けられるなど、なんやかんやしたが、

無事に『仮契約』を締結した。


まだ実感がわかない……


念の為、結構力を入れ、頬をつねってみる……痛え! 

やはり現実だ。

夢ではない。


加えて、食っている弁当も実に美味い。

しっかりと、うま味が分かる。

そう、間違いなく俺が、第一位指名されたのは現実なのだと。


しかし、仮契約をしても、まだ油断はならない。

ぬか喜びは出来ない。


何故なら、1週間後に、10日間の研修があると告げられたからだ。


そもそも、この研修は新人冒険者を指名した各クランが適宜行う。


中でもグランシャリオの研修は、『地獄の訓練』という裏の呼び名がある。

『地獄の訓練』というくらいだから、超が付く高難度の訓練なのは想像に難くない。


そして、この地獄の訓練をクリアしないと、グランシャリオ独自のマイルールでは、

肝心の本契約を勝ち取る事は出来ないらしい。


指名あいさつなど、俺達新人は、いろいろやりとりはあったが、

結局、研修……『地獄の訓練』の詳細は、

ローラン様達から、明らかにされなかった。


はっきりしているのは、


1週間後の朝、各自へ迎えが来て、指名された俺達3人の新人冒険者を、

王都郊外の研修予定地へ連れて行ってくれる事。


研修予定地では、10日間泊まり込みをする合宿だという事。


それまでに自主トレーニングで身体を動かし、必要な装備を整え、

しっかりと準備をしておく事。


研修中は、別途規定の日当が支払われる事。


……以上を「しれっ」とシンプルに指示され、

支度金として金貨10枚を渡されただけなのだ。


これから一体どうなるのか?

『地獄の訓練』とは、どのようなものなのか?

俺は果たして本契約を締結出来るのか?


などなど……不安と悩みはつきなかったが……


腹いっぱいになり、昼間の疲れもあって、いつの間にか俺は眠ってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝……ぐっすり眠れた俺は、気分一新した。

開き直ったと言っても良い。

いくら不安に思っても、悩んでも仕方がない。


ローラン様達から指示された通り、

1週間後に迎えが来るまでに自主トレーニングで身体を動かし、必要な装備を整え、

しっかりと準備をしておく事にしたのだ。


午前6時に起床した俺は宿で朝飯を食べ、まずはストレッチと準備運動を念入りに行う。

そして、ランニングへ出発した。


朝の王都は人通りも少なく走りやすい。


俺はこの機会に、王都中を回る事にした。


王都は俺にとって故郷ではあるが、隅から隅まで把握しているとは言い難い。


夜ならめっちゃヤバイ、愚連隊がうろつくような治安が悪い通りも路地裏も、

朝早い時間ならば比較的安全だ。


まあ、どこの街もそうとは限らないから、真似はしないでくれよな。


話を戻すと、1周のランニングを兼ね、じっくり回り、目をつぶっても王都の土地勘があるようになれば良いと考えたのである。


ランニング終了後は、冒険者ギルドへ赴き、ジムで筋トレ他、徹底的に身体を鍛える。

所属登録証を提示すれば、格安料金で利用可能だから嬉しい。


身体を動かした後は、ギルドの食堂で昼食。


その後はギルドの図書館で魔物に関して情報収集&勉強。


昼食も格安だし、図書館は無料だから、貧乏新人冒険者には助かる。


ギルドを出たら、買い物。

安い店を選び、装備品、薬草、ポーションなどを購入。


そんな日々を繰り返し、7日目の朝……


俺は宿を引き払い、前で待っていた。


グランシャリオから昨日連絡があり、午前7時に迎えに来てくれるという。


やがて……遠くから車輪の音が聞こえ、黒塗りの馬車がやって来て、

俺の前に止まったのである。

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