第8話「だが喜ぶのはまだ早い」

マエストロ、ローラン様以下4名、クラングランシャリオのメンバーへ、

最初の握手付き挨拶が終了した俺エルヴェ・アルノー。


グランシャリオの紅一点で回復役ヒーラー、

麗しき創世神協会元女性司祭のセレスティーヌ・エモニエさんの手を握ってうっとりしていた。


綺麗な年上のお姉様という感じのセレスさん。

変な下心というよりも、尊敬とか憧れの気持ちの方が強い。


しかし、あいさつをしている間も、同期のふたりは悪意のこもったまなざしを向けていた。


自分達の方が、身分、能力は上なのに、

何故俺より下位で指名されたとか言いたいのだろう。


ローラン様達と握手付きのあいさつをして、せっかくいい気分だったのに、

ふたりのジェラシー視線は、はっきり言って不愉快である。


俺はこれからグランシャリオで頑張るつもりだし、

このまま「なあなあ」にするのは嫌だ。


セレスさんと手を放し、俺は同期ふたりへ向き直る。


ファーストインプレッション同様に、何事も最初が肝心。


なので、きっぱりと言う。

ふたりは間違いなく年上でランクも上かもしれないが、

この状況で俺がへりくだる必要はない。


「おい、あなた方! さっきからにらんでるけど、何か言いたい事があるなら言ってくださいよ。俺が礼を尽くしてあいさつしても返さないし、ローラン様達の前で、いったい何考えているんですか」


こう、一気にまくしたててやった。


対して、思いがけず、俺の厳しい反撃の言葉を聞き、

同期のふたりはびっくりしたようである。

少し青ざめた顔を見合わせる。


一方、ローラン様達グランシャリオのメンバーは4人全員無言。

この無言が同期ふたりへ圧力を加えたようだ。


ここで『無敵の人』ならば「ふじこふじこ」とか、わけがわからず騒ぎ出すけど、

さすがにふたりは分別があった。


まずはストロベリーブロンドの魔法使い少女が言う。

両手を合わせ、神妙な面持ちである。


「ごめんなさい、エルヴェさん。……私はシャルロット・ブランシュ。ランクEの魔法使いよ」


ストロベリーブロンドの魔法使い少女……シャルロットさんの次は貴族子弟らしい、

栗毛の短髪少年が続く。

深く一礼し、詫びる。


「エルヴェさん、申し訳ない。俺はフェルナン・バシュレ。バシュレ男爵家の3男坊で元騎士見習いで戦士、ランクEだ」


ふたりは素直に謝った。

でも俺へ『がん飛ばし』した理由ははっきりと言わない。


やはり出自とかランクで、マウントポジション取りたいんだろうなあという、推測。


まあ、良い。

正確な理由は後で確かめる事にして、とりあえず休戦調停だ。


ええっと。

ストロベリーブロンドの魔法使いシャルロット・ブランシュさんに、

栗毛の戦士フェルナン・バシュレさんね。


同期ふたりの名前、おおまかなスペックを把握した俺は、

再び名乗る事にする。


「改めまして! シャルロット・ブランシュさん、フェルナン・バシュレさん、自分はエルヴェ・アルノーと申します! アルノー騎士爵家の3男で年齢は16歳。冒険者ランクはFです! 今後とも、何卒宜しくお願い致します!」


今度こそ気持ちよくあいさつした俺はにっこり笑ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺と同期ふたりのやりとりを、そのまま無言で聞いていた、

マエストロ、ローラン様以下4名、クラングランシャリオのメンバー。


何とか収まったと見ると、ローラン様は予備の長椅子に全員並んで座るよう命じた。

真ん中に俺、俺の右側にシャルロットさん、俺の左側にフェルナンさんである。


俺達3人に対し、改めて入隊の意思を確認された。

当然ながら全員がOKし、仮契約書の書面を確認の上でサインする。

これでグランシャリオと仮契約し、「入隊が内定した」という事となった。


後は、契約金、年俸の提示が、後日ローラン様の屋敷で各自個別に行われ、

研修終了後に、めでたく本契約の運びとなるらしい。


だが喜ぶのはまだ早い。


本契約前に行われる『研修』が問題なのである。


クランの設定した研修をクリアしたものが、入隊を認められ、晴れて本契約を締結する事が出来る。


ちなみに各クランで研修は行われるが、

『地獄の訓練』という裏の呼び名があるのは、

ナンバーワンクラン、グランシャリオの研修だけだと、

新人冒険者の中では結構な噂となっていた。


この『噂』……『地獄の訓練』に関しても、

俺達が質問すると、ローラン様は、「その通りだ」と笑顔で肯定し、

「頑張れよ」と念押しされた。


相当なプレッシャーがかかるが、命以外、俺に失うものは何もない。

俺はそう開き直っていた。


約1か月間、クラン『シーニュ』に仮所属して……

新人には、到底やらせられないような仕事をガンガン振られ、

命を失いそうになるヤバイ状況は、いくつも乗り越えて来たからだ。


でも、俺の両脇に居るふたりはそうでもないらしい。


地獄の研修の話をローラン様から直接聞き、顔面蒼白。

まさに『天国から地獄』状態となっていた。


とりあえず、今後のスケジュールを確認し、

この日は一旦、解散となったのである。

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