第7話「ああ、この手から発する回復魔法で癒されたい……なあ……」

ローラン様達グランシャリオのメンバーへあいさつをした俺へ、

ねめつけるような悪意の視線を向けて来たのは同じく指名を受けた同期のふたり。


改めて見やれば……

ひとりは法衣をまとった肩くらいまでの長さのストロベリーブロンド髪の少女、

顔立ちが整った結構な美形だ。


もうひとりは革鎧をまとった短髪栗毛の少年、こちらも甘いマスクをした、

相当なイケメン。


自分が指名された衝撃ショックで、その後の指名が耳へ入って来なかったから、同期の彼女、彼の名前とプロフは全く知らない。

部屋へ案内してくれたギルド職員のボワローさんに尋ねる事も失念していた。

まあ、自分の事で精一杯だったから、同期の確認まで手が回らなかったという事。


多分、ふたりにとっては……

無名最底辺でランクFの俺が、ドラフト会議で、いの一番に呼ばれたドラフト1位。対して、能力上位の自分達が、2位、3位だから気に入らないといったところか?


しかし今、そんな事を気にしても始まらない。

基本的に仲良くはしたいが、同期はライバルでもある。

レギュラーで使って貰う為、ふたりとの競争に勝たねばならない。


それにこれくらい悪意のある視線自体、どうという事はない。


約1か月間、クラン『シーニュ』のクランリーダーの銀髪女魔法使い、

ミランダ・ベルグニウー以下4人の、悪意のある視線だけでなく、

いわれのない誹謗中傷にさらされていたのだから。


それゆえメンタルも相当鍛えられた。

加えて『二度の追放』も俺の負けじ魂、勝負根性をびしばし鍛え、強靭にしたのだ。


また魔物との戦いで、捨て駒にされた事も無駄ではなかった。

更に鋭くなった勘とともに、さらに戦いの経験値をあげ、

剣技&格闘技の熟練度を著しくあげたのである。


シーニュのメンバーは全員鼻持ちならない嫌な奴らだったが、

1か月の仮所属経験は、俺のスペック全てにおいて、良き訓練になったとポジティブに考えよう。


同期ふたりには、ローラン様達よりもシンプルにあいさつする事にした。


「はじめまして! エルヴェ・アルノーと申します! 年齢は16歳で、冒険者ランクはFです! 今後とも、何卒宜しくお願い致します!」


普段はゆっくりと声のトーンを抑えて話す俺だが、あいさつは別。

大きな声ではきはきと告げた。


同期ふたりへあいさつしたら、ふたりがあいさつをする前に、

クランリーダーたるマエストロ、ローラン様が、

座っていた椅子から立ち上がり、俺へ握手を求めて来る。


ローラン様は長い金髪に宝石のように美しい碧眼。

180㎝超の長身痩躯、しなやかでたくましい四肢、動きに全く無駄がない。

さすが元勇者で、ランクSの武闘派賢者。

『レジェンド』とか『カリスマ』というのはこの人の為にある言葉だろう。


「エルヴェ・アルノー君、一応はじめまして……かな。今まで君を何回か見かけてはいたが、こうやって話すのは初めてだね」


ローラン様は手を差し出しながら、笑顔でそう言ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


おお!

と俺は驚き感動しながら、慌てて手を差し出した。


「はい! ローラン様! 宜しくお願い致します!」


がっつりと握手。

大きくて温かいが、ごつくはない手だ。

凶悪な魔王、数多の魔物どもを倒した勇者の手……というイメージは全くなかった。

……少し意外。


ローラン様が握手を解くと、続いて、立ち上がり握手を求めて来たのが、

盾役タンクを務める戦士のバスチアン・ガスパルさん。

歴戦のベテラン勇士である。


バスチアンさんの年齢は40歳。

身長は2m超え。

体重も100Kgを楽に超えているだろう。

着込んでいる革鎧がパンパン。

全身「むっきむき」の筋肉男である。


そして日焼けした浅黒い褐色の肌で、スキンヘッド。

顔は超こわもて、感情をあまり表に出さない。

人間離れした、魔物オーガのような、たくましい男。

それがバスチアンさん。


「ふん……宜しくな、バスチアンだ」


「はい! バスチアンさん! 宜しくお願い致します!」


おわ!

差し出すバスチアンさんの手がめちゃくちゃごつい。

ふしくれだって、でかい手袋のようだ。


でも握手すると、バスチアンさんの手はローラン様同様、温かかった。


……続いて来たのが、風属性の魔法使いで攻撃役アタッカー

後方支援役バファーも兼務するクリストフ・エマールさん。


クリストフさんの年齢は30歳。

紺色の法衣ローブを着込んだローラン様と同じ金髪碧眼の優男。

穏やかな雰囲気で、同じ魔法使いの癇癪持ちミランダとはまるで違う。


手を差し出すクリストフさんも結構なイケメンだ。

身長は確か180cmにほんのちょっとだけ満たないくらい、やはり長身痩躯。


「はじめまして、エルヴェ・アルノー君! 宜しく! 僕はクリストフ・エマールだよ、クリスと呼んでくれたまえ」


フレンドリーに言うクリストフさんだが、いきなり愛称で呼ぶのはためらいがある。


「ええっと……クリストフさん」


「ははは、クリスと呼んで良いよ」


あはは、愛称呼びの許可が下りた。

では遠慮なく、そうさせていただきます。


「はい、クリスさん。宜しくお願い致します」


クリスさんの手は白く指は細くて長い。

でもやはり手は温かかった。


最後に来たのは、グランシャリオの紅一点で回復役ヒーラー

創世神協会元女性司祭のセレスティーヌ・エモニエさん。


ギルド職員のボワローさんのノックに返事をした人だ。


セレスティーヌさんの年齢は……非公開だが20代半ばだと思われる。


容姿は、背中半ばまで伸ばした美しいプラチナブロンドでダークブルーの瞳。

真っ白な肌で顔が小さくスレンダーな抜群のスタイルで、水色の司祭服を着込んでいる。

やっぱり非の打ち所がない凄い美人だ。


白魚のような手と言うが、その表現はセレスティーヌさんの手にこそふさわしい。


ああ、この手から発する回復魔法で癒されたい……なあ……


俺はちょっち、ぼうっとしていたが、セレスティーヌさんが、


「はじめまして、エルヴェ・アルノーさん、宜しくね。私はセレスティーヌ・エモニエよ。私もセレスと呼んでね♡」


さわやかな笑顔で、透明感のある美声。


「は、はい! セレスさん! 宜しくお願い致します!」


差し出されたセレスさんの白魚のような手を握り、俺は幸せのあまり、

思わず舞い上がっていたのである。

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