第6話「刺すような悪意の視線を向けて来るのは、ローラン様達グランシャリオのメンバーではない」
「ええっと、職員様……準備オッケーです」
「分かりました。では……」
俺の返事を聞き、相変わらず笑顔のギルド職員は、
トントントンと、リズミカルに扉をノックした。
軽快なノックの音が部屋の中へ伝わると、すぐに反応があった。
「誰?」
即座に返事を戻して来たのは、若い女性の女性の声である。
誰が聞いてもうっとりするような、透き通るように綺麗な声だ。
部屋の中には、グランシャリオのメンバー、ローラン様以下4名、
そして俺以外に指名を受けたドラフト2位、3位の新人冒険者が居ると、
ギルド職員からは聞いていた。
だが指名されたばかりの新人冒険者が、ノックに返事をするとは考えにくい。
多分……返事をしたのは、グランシャリオのメンバーで紅一点。
独身男子冒険者憧れの的、美貌の
創世神協会元女性司祭のセレスティーヌ・エモニエさんだ。
何故、俺の心にセレスティーヌさんの名前がぱっと出たかといえば、
理由は簡単。
先ほど
だが、しばし経って落ち着いてから、俺はクラン・グランシャリオの概要を改めて確認していたから。
つまりローラン様以下メンバー4名の氏名、年齢、属性、スキルなどなど……
公式発表されているスペックを、こうして会見する際、
戸惑わないように復習をしておいたのだ。
ギルド職員は言う。
「はい! 『冒険者クラン新人選択希望会議』運営本部の担当職員ボワローです。グランシャリオのドラフト第一位に指名されたエルヴェ・アルノーさんをお連れしました」
対して、セレスティーヌさんは弾むような声で言う。
「お疲れ様です。ありがとうございます。……ああ、よかった。これで指名された3人がそろったわ。エルヴェさんもこの闘技場に居たのですね。マエストロ以下、全員がお待ちかねです。ボワローさん、すぐ通して貰えますか」
「はい! かしこまりました。では扉を開けます」
ギルド職員……ボワローさんは、そう言うと振り返り、
「さあ、エルヴェさん、どうぞ、入りましょう」
俺へ告げ、扉のノブを回し、がちゃっと音をさせた。
ボワローさんの背後に立つ俺の視野に部屋の中の様子が飛び込んで来た。
……そこには、ライオンのたてがみのような長い金髪が特徴のマエストロ、ローラン様を中心にしたグランシャリオのメンバーが4名。
その傍らに控える指名された新人冒険者男女各1名が全員、椅子に座りながら、
俺をじ~っと見つめていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
扉を開けたボワローさんは「すたすたすたっ」と軽快な足取りで入室。
俺は慌てて後を追った。
そして部屋へ入ると、開いていた扉を閉めた。
ローラン様達へ正対する形で立ったままボワローさんは言う。
「マエストロ、ローラン様。クランメンバーの皆様、グランシャリオのドラフト第一位に指名されたエルヴェ・アルノーさんをお連れしました。所属登録証と魔力波チェックで、冒険者ギルド側の本人確認は終了しております。本契約終了後にはお手数ですが、ギルドの方へ、クランメンバー登録のお手続きを何卒宜しくお願い致します」
そう、所属登録証の所持だけでなく、登録証に記憶させた魔力の波動で、
本人確認が可能なのだ。
ちなみにボワローさんは魔法使いではないので、魔道具を使い、確認を行った。
対してローラン様は、
「お疲れ様、ボワロー君。容姿と放たれる魔力の波動で私にも分かるよ。彼は間違いなくウチのクランが第一位指名したエルヴェ・アルノー君だ」
……ええっと、ローラン様。
魔力波動はともかく、俺の顔
たった2回、それも遠目からしか会っていないのに。
嬉しいけど。
それと、放たれる魔力波動で、ぱぱっと本人確認が出来るなんて。
さすが元勇者で武闘派賢者。
相手の本質を見抜くというローラン様の前では、
変身魔法等で擬態してもすぐ見破られてしまうらしい。
すげ~や!!
巷の噂では伝説のスキル、サトリの能力で読心も可能だというから、
ローラン様へ、絶対に嘘はつけない。
まあ、マエストロ、ローラン様に嘘をつく奴なんて居ないと思うけどな。
……という事で、更に二言三言交わし、俺のドナドナは終了。
ボワローさんは深くお辞儀をし、俺を置いて部屋を去っていった。
さあて!
ローラン様達4人へ、礼儀正しくごあいさつしなければ。
そして、同期となる新人冒険者ふたりにも仁義を切ろう。
俺のモットーのひとつ、
最初が肝心。
つまり、ファーストインプレッションが大切。
だから、常に元気ではきはきとした方が好印象。
「はじめまして、ローラン様! クラン、グランシャリオのメンバーの皆様! このたびはご指名いただきありがとうございます! 自分はこのたびのドラフト会議において、グランシャリオの第一位指名を受けましたスフェール王国騎士爵アルノー家の3男、エルヴェ・アルノーと申します! 年齢は16歳で、冒険者ランクはFです! 今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願い致します!」
俺は、はきはきとあいさつし、深く頭を下げた。
しかし、ここで刺すような悪意の視線を感じた。
刺すような悪意の視線を向けて来るのは、ローラン様達グランシャリオのメンバーではない。
ねめつけるような視線を向けていたのは、
俺とともに指名された同期ふたりである。
ひとりは
俺より少し年上らしいストロベリーブロンドの少女。
もうひとりは、俺と同じく貴族子弟らしい、
これまた俺より少し年上らしい革鎧を身にまとった栗毛の少年であったのだ。
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