奇跡の日々が続いていく季節

 夏休みが終わり、また1人の生活に戻って、家族がいる事の幸せに、かなり遅くなったが気付いてしまった。

幸せを自分は簡単に手放していた。


あのまま、気付かない方が、気楽で幸せだったかもしれない。


大翔とは交流を続けている。


コソコソと身バレしないように、有名人気取りでライブを見に行くのは、ちょっとした楽しみになった。やっと趣味と呼べるモノができたと言うべきか?


白夜は一進一退しながらも、毎日を強く生きている。

『夏休みの延長』を知らせた時は、かなり文句を言っていたが、今もまだ、ベッドの上からほとんど動けない生活なのだから、学校に行くなんて到底無謀な行為だ。

文句を言えるだけ元気なんだろうけど。

新学期はすぐに学園祭もあるし、できたら連れて行きたいのが本音ではあるが、こればかりは仕方ない。

それに、あの家に帰ったら、また能力を利用されてしまうかもしれない。

確証はないが、美羽すらも普段の会話の中からそれを恐れているのを薄々感じ取っている。とてもとても大切なんだ。

絶対に同じ想いでいるに違いない。

それがとても嬉しい。

親友の家がそうじゃなかったから尚更だ。


「おはよう、ヤマさん!」


毎朝、元気そうに、自分から明るく挨拶をして来るのも白夜の作戦のひとつだというのも知っているが、いつも「おはよう。」を返して「元気そうだねー。」と、続けて声を掛けるのがこの頃の日課だ。

 診察をしながら、テーブルの上に体力作りの基礎トレーニング、座ったままでできる体力作りなどなど、そんな関係の本が数冊積み上げられているのを見つける。

また、朔と大希が要らない知恵を与えているのか…?

訪ねて来る度に絶対安静だと、再三言ってるんだけど、意味をわかっていないのか、本当に困ったものだ。


「……白夜くん、散歩行く?」


何日か前から何度もお願いして、やっとのことで調子が良さそうだったら数分なら連れて行ってもいいと浜野に許可を貰えた。

本当はリスクも大きいから、浜野としては、ずっと首を横に振りたかったと思う。


「えっ?」


白夜は目を丸くしてこちらを見上げる。

唐突過ぎて理解できていないようだ。


「病院の中を、ちょっと周るだけなんだけどね。」


ようやく理解したのか、ぱぁっと表情が明るくなる。


「行きたい!行きたい!」


白夜の笑顔を見る事が失った幸せを埋める唯一の手段になっている。


「よし!じゃあ、それ以上テンション上げないんだよ?」


「はーい。」


キチンと約束したものの、しばらくの間ほとんど、あの病室から出てないんだ。

テンションは自然と上がるだろうなぁ…。

いつも以上に身体に繋がっているあれこれがあって、車椅子に乗せるだけで、1人だと時間がかかってしまうから、それだけで疲れさせないか心配で、助っ人を2人も呼んでしまった。


 学校に行っている間よりも、バレない程度にゆっくりと歩みを進める。

自分にはただ、見慣れた廊下が、久しぶりに病室の外に出た白夜の目にはどう映っているのだろうか?


「ヤマさん!」


急に呼ばれて嫌な予感がした。


「どうした?」


「行きたい所があるんだ!」

 

「リクエスト、こたえられるかな…?」


足を止めて目線を合わせると、耳を貸してほしいと言われ、すぐその通りして、コソコソと耳元でお願いを聞いた。



突拍子のないものだと、どうにもならないが、幸い叶えてあげられそうでよかった。








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