暑い熱い舞台の上の季節15

 美羽と話しを弾ませて、つい、賑やかになってしまったようで白夜が薄目を開ける。

改めて「おはよう。」をすると、微笑んで応えてくれる。


やっぱりこの子はどこまでも強い。


こんな状態でも輝きを失わない。


これがSの…いいや、白夜の力。


揺らぐ心。

だけど、どうやって?


美羽に退出してもらってから、いつものように診察をすすめる。

だが、思った通り知れば知るほど、無謀な事だと納得せざるを得ない。


でも、でも……


「……ヤマさん…今は…いいから。」


心の葛藤がまるで透けて見えたかのように、小さく小さく白夜は呟いた。

かけてあげる言葉が見つからなくて、頭の中を必死に捜索してみるがやっぱり出てこない。

すると、白夜は点滴の繋がっていない右腕を掲げ拳を握りしめる。


「……でも、諦めたわけじゃない。今が、だめでも…絶対、絶対いつかは!朔と…朔の隣で……」


カルテをその辺に投げ捨ててその拳を両手で包む。


「そうだね、白夜くん!だから、絶対、絶対、元気になろう!!」


白夜は力強く頷いた。

そうだ、この子は奇跡だって起こせるに違いない。

こんな身勝手な能力に、蝕まれてただ運命の通りにおわるはずなんてない。

 翌日は座って朔とテレビ電話ができるまでになった。

様子を見て、いつでもストップを掛けられるように、邪魔にはなるだろうけれど、会話中ずっと隣に居させてもらった。

朔は、『びゃくちゃんがいない分も頑張ります!』と言ってはいるものの、いつも以上に明るく話しをしている裏には、寂しい気持ちを押し殺している、そんな感じがした。

白夜本人もその事に気付いているようで、それが見ていていっそう心を痛めた。


その次の日は、コソコソと楽譜を書いたり、大希に借りた本を読んだりして、数値は全然良い方に変わらないはずなのに、随分元気な見た目になっていた。

夏休みの宿題が半分以上終わっていないと真剣に相談された時はちょっと驚いたけれど、具合が悪かったという、嘘偽りない理由があるのだから許してもらえるだろう。


 迎えたステージ本番の日。

本来配信はしないのだけれど、朔が懇願してくれて会場の様子をリアルタイムでネットで観られるようにしてもらった。


朔の力強い歌声と会場の熱気までも伝わって来るような歓声。


まるで参加しているかのように、とても楽しそうにしていたのに、急に白夜はポロポロと大粒の涙を流して泣きだす。


「……白夜くん、どうしたの、具合悪くなっちゃた?」


急な事で驚いて焦ってしまったが、白夜は首を横に振って涙を袖で拭う。


「……悔しい…。」


たったひとつ言い放って、また画面をじっと見つめる。


熱い眼差しは、けして諦めを知らない。


そうだ、いつかは絶対、舞台の上に!


立たせてみせるんだ。


木に止まった蝉が、鳴くのを止めてパタりと地面に転がり落ちて、命は巡る。

暑い夏の日が、だんだんと翳っていく。


またひとつ季節がすすんでいく。

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