暑い熱い舞台の上の季節14
大翔の夢の為という理由もあったが、勿論、久しぶりに知人に会いたかったのも大きい。
場所も機材も全て揃っている本格的なレッスンをさせてみようとお願いしたのだ。
あちこちを転々として多忙な日々を送っているはずなのに、彼は断るどころか大歓迎してくれた。
お盆休みの間は、ここに留まって避暑をしているから大丈夫だと、言っていたけれど、本当なのかはわからない。
大翔のレッスンに付き合って一緒に声を出したりもして、自分もひとときだけあの頃に戻ったようで、とても楽しかった。
今でも心の奥底では、やっぱり舞台の上がすきなんだ。
そして、この想いを繋げていけたら、どんなに嬉しいだろう。
楽しかった時間はあっという間で、すぐに日が暮れる。
たくさんお礼を言って、叔母から預かった手土産を奥さんに手渡し、ここでも(また来る)事を約束して、在るべき場所へと戻る。
美羽からのメッセージを期待していたのに、あちらからは何もない。
美羽はお盆とはいえ、きっと多忙なんだろうな。
楽しかった思い出話しをしているのに、何度もスマートフォンに目をやってしまう。
「父さん、なんで歌うの辞めちゃったの?」
真面目な顔をしてそんな事を聞くから、驚いたけれど答えは、自分の中にしっかりあったから困らなかった。
「それは、まあ…、やっぱり1人であの場所に立つのはなんか違うっていうか…。それに、今の仕事、好きだしね。昔も今も人を救ってるのには変わりないんだ。」
「そっか。母さんって贅沢だよな。確かに地味だけど超ハイスペックなのに。」
「えっ??」
「元芸能人で、医師免許もある看護師なんて、そうそういないって。」
「自分のやりたいことしかしないから、ダメなんだよ。大翔はそうならないでね。」
「自分の悪いところわかってるじゃん!」
「あはは…。さ、大翔も明日から、またバイトあるんだし、もう寝ようか。」
「話し無理矢理終わらすなよ!」
そうだ、もう少し人を想えたら…
だけど、自分はもうこれでいい。
これ以上でもこれ以下でもなくて。
久しぶりの通勤の朝も相変わらず太陽の日差しは、弱まる気配もない。
今度、大翔のバイト先に行く約束もした。
大翔に身バレしないようにと念を押されたけれど、自分はそんなに有名なわけでもないし、首を傾げた。
そして、数日後には、いよいよ朔と白夜のステージがある、あるんだ。
「おはよう、白夜くん。」
病室の扉を開けると、美羽がすぐに歩み寄って来る。まだ本来ならば面会時間ではないけれど、来れる時間が限られているから、医院長が直々に特別に許可を出している。
「おはよう、ヤマさん、久しぶりね。楽しんで来た?」
「美羽さん、おはようございます。おかげさまで、たくさん楽しんで来ましたよ。」
そう言って、悩みに悩み選んできた地元の、ある程度有名なお菓子を差し出す。
美羽は「ありがとう。」と、言ってそれを丁寧に受け取り微笑んでくれた。
美羽にとって、あの庶民的なお菓子は、どうなんだろう…
さっき、お盆休みでいない間の記録に目を通したが、数値的にはあまり変わり映えがない。
まだまだ、圧倒的に寝ている時間の方が多いようだ。
諦めさせたくない、
でも、そうするしかない。
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