暑い熱い舞台の上の季節12

 やがて夜になって、川沿いで行われる小さな花火大会に出掛けた。

こんな田舎でも、人が集まる夏祭りは賑やかで楽しい。大翔と屋台を巡ったり、花火を見上げ笑い合いながらも、やっぱり残念ながら心は何処かに行ってしまっている。

街灯もほとんどない薄暗い帰り道で大翔が足を止める。

またカブトムシでも見つけたのか?

いや、今度はクワガタか?

夏の虫たちがそれぞれに力強くそれぞれの音色で鳴いている。


「父さん、花火最高だったね。」


「あ、うん。」


大翔は急に懐中電灯をマイクのように持って、歌を歌い始める。

周りに家なんてほとんどないから迷惑にはならないだろうけど…驚いて止めようとするが、大翔は無視して歌い続ける。


それも、このうたは……


親友とうたった中でも1番大事なうただ。

そうか、あの時からずっとこのうたを練習をしていたのか?


「ほら、父さんも!自分のパート…」


目を瞑る。


ステージの上にいた自分を思い出す。


今でも瞼の裏にくっついて消えない。

消せやしないんだ!


あの熱い熱い夏の日の思い出。


そうだ、あの経験を、大翔にも…

白夜にもさせてあげたい。


夢は夢のままおわらない。


おわるわけがない!


目を開けて空を見上げると、一面の星空がキラキラと輝きをくれる。

あっという間にステージの上のような眩さを身体に感じる。


声を出す。


大翔のうたに応えうたをのせる。


悔しいけれど、やっぱり声を出すのは気持ちがいい。

うたい終えると、大翔が照れ臭そうに膝で突っつく。おかしくなって笑うと、すぐにそのまま返ってくる。

楽しい気分のまま、夜は更けていく。


 幼い頃は、自分の夢なんて曖昧でぼんやりとしたものだった。

大きくなったら自然と大人になって、なにかやりたいことをしている。

あの頃はまだステージを知らなかった。


うたは保育園で、仲間外れにされて寂しい時に口ずさんだりしていた。

知らなかったはずの母、だけど確実に頭の中に残っていた優しいメロディ。

あれは、子守唄?

童謡ではなかったのは確かだ。


運命を変えたのは年長組になって、保育園の外で合唱をしたあの日の夜。


家にかかってきた1本の電話。


反対する祖父母に対して、背中を押してくれたのは叔母だった。


元々親は居なかったし、地元では友達と呼べるような存在も特に居なかったから、1人で都会に出るのには、まだ小さくても抵抗はなかった。

だけど、実際についてみると、見る物全てが怖くて怖くて…


そんな、自分の手をとって

さらにステージへと導いてくれたのが


親友だったな…。


眠りについて、夢を見ていたら、急に着信が鳴って目を覚ます。


まだ、部屋は真っ暗で、隣では大翔がぐっすり寝ている。


時間を見ると深夜の2時を少し過ぎたくらいで、こんな時間にいったい誰だろ?とメッセージを覗く。

番号は、登録がない人からだが


(ヤマさん、おはよう。ピアノ弾きたい。)


たったそれだけ


だけど、なによりも嬉しい


それだけだ。


目を疑ったりもしたが、これは間違いなく白夜からのメッセージだと確信した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る