暑い熱い舞台の上の季節11

 自宅に戻ってからも、心半分ここに在らずだったようで、大翔が一生懸命楽しそうな話しをしていたのに、一欠片も覚えていないし、夕飯の内容も、聞かれてもきっと答えられない。

朝になれば、少しはマシになると思っていたが、そんなわけはなかった。

でも、約束していた実家への帰省に出掛ける事にした。

大翔にとっての大叔母に久しぶりに会いに行く。自分にとっては育ての親のような人だ。

それなのに、もう何十年も帰っていないし、連絡があっても忙しい事を理由にろくに話しもしていない。

なんてひどい事をしていたんだ。

今回も大翔が行ってみたいと、言わなかったら行かなかったんだろう。


新幹線に揺られている間も、大翔よりも白夜の方が気になって、そんな自分に嫌気がさす。

気を紛らわそうとスマートフォンを覗くが、誰からの着信もない。


外の風景が、ビル群からやがて緑の山々に変わっていく。

お互いに会話らしい会話はほとんどない。

すぐ隣にいてくれるのに、これじゃあ以前と何ら変わらない。

でも、だからと言ってすぐに話題が浮かぶわけでもない。


「大翔、いい天気でよかったね。」


こんなありきたりな定型分しか思いつかない自分が笑える。


「……心配なんだろ?父さんはいつも、1人で抱え込むんだから。守秘義務?とかあるだろうけど、言えることは言えばいいよ。なんでも聞くし?」


「………大翔、そういうところ、似たよね。」


「母さん、いつも心配ばかりしてたんだ。今だって……いや、なんでもない。」


また会話がなくなる。

繋げたいのに繋がらない。


そのまま、とうとう降り立つ駅に到着してしまう。

ここから、さらに乗り換えて別の電車で1時間。そしてバスとタクシーでやっとたどり着く山の中の古めかしい古民家。

昔住んでいた頃からボロ屋敷だったが、さらに拍車がかかったな、と、しみじみ外観を見て思っていた。

高校生にもなったのに、大翔はカブトムシを見つけてはしゃいでいる。

その姿は見ていて飽きないし、こっちも楽しくなる。


「おかえりー!そして、いらっしゃい、大翔くん。」


家の前の畑で出迎えてくれた叔母は、ずいぶんやつれて年老いていて、すっかり老婆になっていた。自分が居たせいで、生涯嫁にも行かず、こんな山奥でひっそりと暮らしていた、実父の姉だ。

昔は腕の立つ看護師だったんだ。

きっと、今の自分が出来上がる数%は、叔母の背中を追いかけていたのもあるんだろう。


家の中に上がると、どの部屋も昔と変わらない事が嬉しく思える。

懐かしいってこんな感じなのか…


仏壇の祖父母に帰って来た事を伝えるように少し長めに手を合わせて、それから用意してくれたお茶とお菓子をつまみながら、叔母と大翔の楽しそうな会話に耳を傾けていた。

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