暑い熱い舞台の上の季節10
バラード曲ばかり歌って、泣かせるのが特技とか、そんな事を言われていた、どこか神秘的な雰囲気の女性だった。
国内外、老若男女問わず、とても人気のある有名人だったな。
引退を発表した後、1度も表舞台に出る事はなかった。
1回だけどこかで会った事があるような、ないような…。
亡くなってから、もう何年も経っている。
「ヤマさん、知ってるわよね?」
「知っていますけど……。」
「白夜の産みの母親よ。」
世間的には、結婚も妊娠も出産だって公表していなかったんだ。
「えっ、ええええ!?」
衝撃の事実に、つい、声を抑えるのを忘れてしまった。
という事は、彼女もA能力者だったわけか…
そして、柊湊とは、従兄妹関係で…
辻褄が合う。
「ヤマさんの声に驚いて、白夜が目を覚ましたら、それはそれでもいいけれど…、この通りそんな事はないんだし、このCDを聴かせてあげてほしいの。個室だし、別に構わないでしょう?」
美羽は愛おしそうに眠る白夜の頭を撫でて、どこか寂しそうな顔をする。
「私は一生、遥夏おばさまのような存在には、なれはしない。」
「いえ、美羽さんも立派に母親ですよ。いいじゃないですか、母親が2人居たって。1人もいなかった、ぼくからしたら、白夜くんが羨ましいです。」
こちらに向かって微かに笑ってくれた。
美羽には、こっちの顔の方がよく似合う。
「……ありがとうヤマさん。」
「いいえ、本当の事ですから。さて、CDプレイヤー用意して来ますね。」
同時に立ち上がって、なんだかおかしくなってしまう。
「……私は時間だからそろそろ行くわね。そうだ、ヤマさん。お盆休みの間は、白夜の事なんて気にしないで、ちゃんと、大翔くんと楽しむのよ?」
「えっ、あ、は…。」
大翔と一緒に過ごす為に珍しくぎゅうぎゅうに詰め込むほど入れていた予定を全部キャンセルにしようかと思っていたのを見透かされていたのか…
家族を優先させなければいけないことは、頭ではわかっている。
だけど、ここで沢山の管に繋がれてベッドに横たわり、機械や薬の甲斐あってギリギリ生きている白夜を数日間、気にしないなんて事ができるだろうか?
いや、絶対無理に決まっているだろう。
「白夜なら大丈夫、私が毎日来るんだし。ヤマさんは大翔くんを大切にしないと…。」
「……お盆休みが終わる頃には起きててくれますかね?」
「そうね、ヤマさんが戻って来る頃には、また、元気に悪さをしているかもしれないわ。」
「そうじゃないと困りますね。」
美羽と別れた後、ナースステーションで少し仕事を片付けてから、再びCDプレイヤーを持って白夜のいる病室へ戻る。
特有の美しく澄み渡った歌声がよく響く、楽器の音があまりしない、ゆったりした曲だと思っていたら、バリバリのロック調で、ポップな曲を歌っている知らない声の遥夏だった。
未発表曲とは聞いていたが、表立っていた遥夏とはかけ離れていたからとても驚いた。
白夜もそういえば、かなりアップテンポな曲を書いていたっけ?
前向きに
届いてほしい。
届くと願いたい。
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