暑い熱い舞台の上の季節4

 白夜が眠るまでは隣にいて、空が夕焼け色に染まる頃には病院に戻った。

たまたま、浜野に会えたから、昼間の朔の事を、なんとなく聞いてみたが、「お前の知る事ではない。」と、怒られてしまった。

親友も、絶対に教えてはくれなかった。

もうひとつの、いわば裏の、うたのちからの、使い方。

その裏の使い方こそ、大きく命を削って使うんだろう。

考え事に浸っていたら家に帰るのが、すっかり遅くなってしまった。

 扉を開けて「ただいま。」をすると、カレーのいい匂いがして、お腹の虫が騒ぎだす。そういえばお腹が空いていた。

そして、「おかえり!」と、疲れが吹き飛ぶような返事をもらえる。

昔はこんな返事、鬱陶しいだけだと、思ってた、それは間違いだった。

今こんなに嬉しいんだから。


でも、大翔と楽しいお喋りをしながら美味しいカレーを食べていても頭の中では白夜の事ばかり考えてしまう。


どこまでダメな父親なんだろう。


今日の夜も、昼からの暑い気温がほとんど下がらず寝苦しい夜だ。

エアコンが無かったら、どんな人間でも具合が悪くなりそうなくらい茹っていた。


そして、翌朝も、そのまま快晴になって、酷暑が続く。いい加減、雨でも降って少しは涼しくなってほしいものだ。


手作りの朝ご飯を食べて、大き目の梅のおにぎりを2つ持って、いつもよりも早めの出勤する。

白夜の点滴が終わるタイミングに合わせて柊の家に行くからだ。

どうしているだろうか……

早く前のように元気に笑ったりしている姿が心の底から見たかった。

でも、今朝もそれは叶わなかった。

眠っている白夜を起こさないように最低限の診察をして、点滴を交換したら、また夕方、柊の家にお邪魔するというのを家政婦さんに伝え、戻って来るだけになってしまった。


 改めて数値の良くない白夜の電子カルテを見て溜息しか出ない。こんなの本音では見たくもない。

幸い待機時間という事で、する事もなく、気晴らしに、病院の中を目的もなく、ぷらぷら歩いて気を紛らわすことができた。


「ヤーマさん?」


背後から呼ばれて振り返ると


「朔ちゃん?」


昨日あんなに辛そうだった朔が、今日は笑顔でいる。

相変わらず、いつ見ても可愛らしく派手な格好をしている。

なんて声を掛けるべきか?

昨日の心配事を掘り返したら気分を害すだろうか?

でも、やっぱり気にならないわけがない。


「……ねぇ、ヤマさん。さくちゃんは、びゃくちゃんの所に行きたいです。」


「えっ、うん…って、ええっ!?」


頭の中で、どうしようかと、もんもんしている間に、とんでもない事を言われ、しかも適当に「うん」と言ってしまったじゃないか!?

能力者の家系では、絶対に他の家の能力者に自分の家の敷居を跨がせないんだと、かつて親友が言っていた。

遺伝能力者ではない自分が遊びに行った時も、他の能力者を家に入れて…と、家の人に渋い顔をされたくらいだ。

それはやっぱり、他の血を混ぜない為の…


「さくちゃんは、びゃくちゃんが心配です。それに、びゃくちゃんにはさくちゃんが必要なんです。」


「でも、ねぇ……。」

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