暑い熱い舞台の上の季節3

「……朔ちゃん……。」


薄らと手のひらについた赤い色を見逃せなかった。

あの時の親友と同じ…

朔も血を吐くほど、うたっているのか…

自分の知らないうたを…


「椿、そろそろ行くぞ。油を売っている暇はない。薬も手に入ったんだ。ここには、もう用はない。」


朔を迎えに来た白いパーカーで、それのフードをすっぽりかぶった少年は、確か同じクラスの…顔はよく見えないが、とても大人っぽい雰囲気で背丈も朔ほどではないが高く、一瞬見た感じだと、とても中学生には見えない。

名前は覚えていないが、白夜に聞いた事がある。特進3年の朔を含めて2人いるうちの、もう1人のA能力者か?


「あ…朔ちゃん!?」


ぼんやりしている間に、朔はさっきの少年と共に姿を消していた。

遺伝家系は…特にA能力者たちは、いつも、何か…負を背負っている。

あの家にいたら自然と知る事になると思っていたけれど、実際は隠されたままだ。

ごく少量とはいえ喀血して、苦しそうにしていた朔がとても心配だ。

大丈夫なんだろうか…

浜野に会って事情を聞こうと思ったが、今、自分が優先すべき物を見失ってはいけないんだと、我に返ってバタバタと必要な物を揃え、必要な書類を作ったら、余計な事をせずに真っ直ぐ柊の家に戻った。

 本日2度目の柊の家玄関は、お手伝いさんたちと、暑さも忘れそうなくらい元気に走り回っている星夜が出迎えてくれた。

美羽はちょうど昼に仕事に出掛けたらしい。

表の仕事か裏の仕事かは、わからないが、本当に忙しい人だな…。


「……白夜くん、こんにちは。」


目を開けているものの、ぼんやりした様子でベッドの上にいる白夜が、声を聞いて、こちらに右手を伸ばした。


「ヤマ…さん…」


その手をとって、ぎゅっと握ると、いつも通り、外の暑さが嘘のように冷たいことにひとつ安堵する。


「……どうした?」


「そと…に…朔に…あいに…」


苦しそうな呼吸で途切れ途切れな言葉だったけれど、しっかり聞き取れた。

でも、今は首を横に振るしかない。


「……その為にも、まずは、元気になろうね。朔ちゃんを最高に輝かせるのは、白夜くんの演奏じゃないとダメなんだから!」


白夜は一応微笑んで頷くが、どこか浮かない顔をしていた。

やっぱり思い通りに動けないのは悔しいのだろう。だからといって、望みを叶える為に外に連れ出すのは、こんな状態で真夏の暑さだ、命の危険さえある。


再び簡単に診察をして、声を掛けながら左腕に点滴の針を入れる。

白夜の腕は白くて細くて血管もわかりにくいから、いつも以上に神経を尖らせる。


白夜も気を遣ってくれているのか、本当は痛いはずなのに、声を上げたりせず、黙って身を預けるばかりだ。




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