暑い熱い舞台の上の季節2

どうでもいい事を考えている間に目的の白夜の部屋に着いている。

入れ違いに出て行く藤崎に挨拶をして、白夜の元に歩み寄る。

日に日に体力を奪われ、弱々しくなって、みるみるうちに衰弱しているのが、悲しくも、すぐにわかってしまう。

外は真夏の暑さでも、快適な温度にしている部屋なのに、そんなの関係ないか。

直射日光が入らないように、遮光カーテンもぴしっと閉められている。


「白夜くん、おはよう。」


返事はない。

こんな調子だと、舞台に立つどころか、この夏を乗り越えらないかもしれない…。

信じたくない……

いや、絶対に朔の隣で舞台にも立たせてあげたいし、夏休みが終わったら、また一緒に学校に行くんだ。


「病院に連れて行きます?」


美羽は首を横に振る。


「連れて行ったところで、なにか変わるわけでもない。むしろ、移動で余計な体力を使っちゃうし、なによりヤマさんだけで十分でしょう?」


いつも通りすぐに言い返したいところもあったが、ぐっと堪えて冷静に返す。


「……とりあえず診察しますね。」


「わかったわ、お願いね。」


美羽は、ふわっと白夜の頭をひと撫でだけして、黙って部屋を出て行った。

いつもなら過度なくらいペタペタと、スキンシップをとっているのに、まるで今にも割れそうなガラスを触るみたいだった。


「白夜くん、診察するから、触るね。」


内心、自分自身も、割れそうなガラスを必死に割れないように優しく優しく、細心の注意を払って触れているような、そんな気分で、とても怖かったから、美羽の気持ちがわからなくもない。

こんなに具合が悪いのに、白夜はそれでも、やはり音楽を諦めてはいない。

枕の下から楽譜がはみ出ているのを見つけたが、そのまま気付かなかったことにした。

枕の下に入れておくと、確か、夢に見れるんじゃなかったけ?

それは、絵本だけの話しか…?


 一通り診察を終えて、美羽に淡々と現状の報告をして、脱水症状が少しあるから在宅での点滴の承諾を貰い、一旦、病院に戻る。

外は、朝よりも熱気が増し、茹だるような暑さが日常的な動きだけでも体力を奪う。

足早に病院の中に避難して、まずは休憩室で滝のように流れる汗をタオルで拭って、途中で買ったスポーツドリンクを飲み干して水分を補う。

それから、急いで再び白夜の元に向かう準備を進めようと廊下を歩いていると、外来の待合所の椅子の並びで見慣れた派手なひらひらした服装の少女を見つける。


「朔ちゃん?」


気軽に声を掛けたのが悪かったのか、振り返って普段は…白夜の前では絶対しないような顔で睨まれる。


「……なんか、ごめん。」


謝ると、ころっと表情をいつもの雰囲気に変えて、だけどすぐ下を向いてしまう。


「……いいえ、ヤマさん、あたしの方こそ、ごめんなさい。びゃくちゃんには、あたしがここにいた事、絶対に言ってはだめですよ。」


「……わかったけど…暑いの続くから朔ちゃんも具合悪くなっちゃった?大丈夫?」


…ですか…そうですか。びゃくちゃんは、暑いから、お外に出れないだけじゃないんですね。」


「あ……。」


ついついあまり深く考えずに言ってしまった。

朔に、余計な心配をさせるわけにはいかないのに。

どうしようかと、言い訳を悩んでいると、朔が急に咳き込む。

白夜の咳に似た苦しそうな咳だ。

咄嗟に背中を撫でようとするが、朔に腕を弾かれてしまった。


「……あたしに…構わないで。」






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