番外編①

 ごめんなさい、ごめんなさい…


こんな自分を能力者としてではなく、ただただ大切に想ってくれているのに、困らせるようなことばかりして、本当にごめんなさい。


3人だけで……

友達とだけ、僅かな時間でも構わないから楽しんでみたかったんだ。


我儘でしかないけれど、やってみたい事の1つだった。


でも、朔も、大希も、本当は怖かったと思う。

特に朔には昔から、損な役回りばかりさせてしまっているのに……嫌な顔1つしない。

むしろ、最高にキラキラした笑顔で、常に隣にいてくれる。


こんな身体で産まれた事を憎んでいた。

どうして、他人の為に生きていなければいけないのかと苦しく悩んで、あの時の大希と同じように真っ暗な世界へ旅立ちたいと思う事も幾度もあった。

だけど、大希にも、あんな風に言えるようになったのは、やっぱり朔のおかげだ。


「びゃくちゃん、海に到着ですよ!!」


産まれてはじめて、テレビとか映像ではなくて、数メートルしか距離のない場所で波の音を耳にするのは心がとてもざわざわした。

自然の音はいつもそうだ。

大雨の大きな雨粒が地面に落ちる音、雷の音、それから台風の日の風の音、みんなざわざわする。

すごく壮大な音なんだ。


「朔、もっと近くに行きたい!波に触ってみたい!」


「でも、流石にそのままじゃ行けませんよ?砂浜は車椅子の車輪が埋まってしまいますからねぇ…」


朔が困った顔をして大希の方を向くと、大希も同じような顔をする。

いつも困らせてばかり…。

2人をもっと困らせることになっても、せっかくここまで来たんだからと、思ってしまう馬鹿な自分がいる。

とっくに身体が悲鳴を上げているのは気付いている。

でも、このままベッドに戻ったら、一生後悔するだろう。

俺に来年の夏なんてあるかわからない。

いや、たぶんない。


「じゃあ、お願いだ!少しだけ、手を貸してくれ。」


身体に朔が寒くないようにと、念入りに巻いてくれた毛布を外そうとするが、うまくいかない。


「まさか、歩くんですか!?」


そんな風に言いながらも朔は、それを手伝ってくれる。


「ああ。」


「本気かよ。まったく……」


大希もそう言いながら、車椅子に、ぐるぐるとまとめてくくりつけてある酸素吸入のチューブを伸ばしてくれる。

長さが足りるか…は、わからないけど。

足りなかったら、少しくらいなら外しても、すぐに死にはしない。数年前にめちゃくちゃ怒られたけれど、やらかした事がある。

あの時も朔と一緒だったなぁ…。

朔と大希に両方から力強く支えられ、ようやく砂浜に足をつける。

靴を履いて来なかったから、細かい砂のさらさらとした気持ちいい感覚を味わうことができた。

そうだ、今、まさに、地球の上に立っている。俺はここにいるんだ。

泣きたいほど嬉しかった。

朝の海風は、心地良くて、潮の匂いが混じっている。青い青い海の先の地平線が眩しい。


もう少しで波打ち際なのに…

胸が痛くなって苦しくて、そして止まらない咳が出て、ふらふらと倒れそうになるが、2人がしっかりと身体を支えてくれた。


「やっぱりヤバいって。おい!朔太郎!薬、鞄に入れて来ただろう?」


「もう!あたしは、さくちゃんです!とりあえず座りましょう!」


どうして身体は思い通りにならない?

自分の身体なのに…


みんなはあんなに自由なのに

どうして自分だけが…


ふつうのこどもになりたかった


大希がずっと背中をさすってくれていた。

朔が昨日ヤマさんから薬の使い方を習っていて、すぐに役に立った。

咳は止まっても、こんな事をして、この身体が耐えられるわけがない。

パタンと砂の上に仰向けで転がると、空がとても大きい事に気付く。


「びゃくちゃん、大丈夫です!?やっぱりヤマさん呼びましょうか!?」


「朔、あれ、飛行機、かな……?」


早くなる呼吸を押し殺して、なんとか出した言葉だった。


「えっ?」


「本当だ、飛行機だな。こんな朝早いのに…もう飛んでるんだ?」


大希が空を見上げて、そう答えると朔が笑ってくれた。

朔は、断然、明るく笑っている方がいい。

泣いていたり、苦しんでいる朔の顔は、もう見たくない。自分のせいで悲しませるのも本当は嫌だ。


「飛行機…みたいに…飛べたら…。」


「ええっー鳥じゃなくて、ですか?」


「飛行機の方がカッコいいもんな!そうだろう、白夜!?」


大希も楽しそうに隣で笑ってくれる。

そうだ、今、とても幸せなんだな。


死にたくない、まだまだ生きていたい


ずっとずっと、こうやって3人で、もっともっと楽しい事をしたい。

だったら……


「……さく…ヤマさん…を…」


「呼ばなくても来たようですよ!」


「さて、みんなで怒られるぞ。」


「ええっ?たいちゃん1人で怒られて下さいよぉ〜!?」


「なんでだよ!」


笑い合う2人の姿が、おかしくて、苦しくて辛いはずなのに笑えてしまう。


友達というものを知れて


本当に良かった。


家族を知って

友達を知って


差別なく大切にしてくれる人を知って


俺は他の能力者から比べたら、本当に、ずるいくらいだな。



ああ…幸せだなぁ。


幸せ過ぎる。


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