焦がすほどの陽光が眩しい季節14

 下の階に降りると、さすがに、まだ、この時間には従業員くらいしかいない。


それなのに


「あら、ヤマさんも早起きね?」


突然背後から知っている声に呼び止められて、慌てて振り返ると


「み、美羽さん!?」


美羽がいる。

足はできるだけ止めたくなかったのに。


「今日も天気が良くてよかったわね。」


「そ、それどころじゃないんですよ!!」


早口で必死に今起きている事を、だいたいまとめて説明すると、美羽はくすくす笑いだす。

こちらは引き攣った苦笑いを返すしかできない。


「と、とりあえず、急ぎますね!」


「ヤマさん、私も行くわ。」


美羽と共に、慌てつつ、恐る恐るビーチ側の出入り口を出ると、眩しい程の朝日が、早くも地面を焦がしていた。

誰もいない波音の響く砂浜に、楽しそうな笑い声が3つ。

物陰に隠れながら、そっとそっとその声に近付くと砂浜に寝転がる白夜と、その両脇にぺたっと座る朔と大希を見つけ、目が点になる。

すぐに、と、足を踏み出そうとすると美羽に肩を叩かれる。


「ヤマさん、待って…」


「えっ、どうして…。」


「……大丈夫そうだし、少し見守りましょう?せっかく楽しそうなのに可哀想でしょう?」


「いや、何かあってからでは……」


「大丈夫よ。」


そんな自信、どこから湧くのか…

どうしてよいかわからなくなって、足が止まる。

振り向いて美羽の顔を見下ろすと、真っ直ぐにこちらを見上げて


「むしろ、このまま終われるなら……その方が幸せなのかもしれないわ…」


そんな事を言って微笑む。

そんな事は…そんな事は…


「ダメです、そんなの!絶対ダメです!まだ夏休みには、舞台に立たないといけないんです!!その後だって、朔ちゃんと大希くんと……まだまだ白夜くんは生きるんです!生きなくちゃいけないんです!」


一時の激情に駆られて思った事が全部そのまま口から出てしまった。


「……そうね、ごめんなさい。」


静寂な風に、こんな大きな声を混ぜて、気付かれずに済むはずがない。

朔と大希が立ち上がってあたふたしているが、目もくれず、そのまま物陰から飛び出して、白夜の元にまっしぐらに駆け寄って、砂の上に転がる白夜を抱き抱える。


「…ヤマさん…おはよう。」 


いつも通りの声色で、心配ないと言わんばかりに口角を上げる。


「…こんなに砂だらけになっちゃって…。」


どこからともなく込み上げて来る涙を、ついに抑えられなくなる。


「…ヤマさん…?」


無事で良かった、から?

何事もなかった、から?


それ以上に、失いたくなかった。


「………ヤマ…さん。」


気まずい空気が流れ、朔と大希は途方に暮れ、静寂がさらに深まってしまった。


「……ヤマさん…本当に、ごめん……全然、大丈夫だから。」


戸惑いながらも白夜は、精一杯手を伸ばして、いつもされているように頭を撫でてくれた。


「…このままここに居たら目立つから戻るわよ。朔ちゃん、大希くん……それに、白夜。戻ったら、しっかり話しを聞かせてちょうだい。」


美羽は腕組みをして、呆れたように全員を見回した。






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