焦がすほどの陽光が眩しい季節13

「…本当にやるのか?」


不安そうな大希の声。


「せっかくだもの、みんなで、ちゃーんと近くで海を見てから帰りましょう!」


それを消すかのような朔の明るい声。


「だけど…さ…。」


「ヤマさんがやってるの何回も見た事あるし、ネットでも一応、調べたから大丈夫よ!」


「なんでそんなに自信あるんだよ…。白夜になんかあったら怖いだろう?」


もしかして、白夜を何処かに連れて行こうとしているのか?

白夜を連れて行くには、酸素吸入を絶対に止める事ができないから、酸素濃縮器から移動用の酸素ボンベに切り替えをする必要がある。

やり方を教えている一部の家政婦さんなら、なんとか任せられるものの、知識もない子供たちだけでできるはずもない。


「大丈夫だ、調子も良いし。大希は心配し過ぎた。」


調子の良し悪しじゃないんだって……

やっぱり、今すぐ目を開けて、止めるべきなんだろうけれど…

この際だから邪魔をせずに、好きなように、させてあげたいという思いも消えない。


「コレがないと、すぐ酸欠になるの知ってるんだぞ?」


何事にも慎重な大希がいてくれて、本当に良かったが


「びゃくちゃんが大丈夫って言ってるだから、大丈夫よ!ほら、たいちゃん、やるったら、やるわよ!」


朔を止めるまでには至らないか…


「……なんかあっても、責任取れないんだぞ?」


「俺の我儘だって言えば問題ない。むしろ、巻き込んで悪い…」


自分の状態なんだから1番わかっているのに、何を言っているんだ。


「いいえ。あたしたちで良ければ、いつでもお手伝いします。お外、寒いかもしれないから、毛布、巻き巻きしますね?」


「……なんとかできた。起きてる時の方が酸素多めだったよな?」


「そうそう、わかってるじゃないの!でも、具体的な数値はよくわからないのよね?」


「朔、大希、静かにしないと、ヤマさんが起きるぞ?適当で大丈夫だから、急いでくれ。」


「とりあえず、びゃくちゃんが苦しくないなら、問題ないですからね!」


「いやいや、絶対そうじゃないって。」


「さ、出発だ!朔、大希、行くぞ。」


「おい、白夜…本当に…」


「大丈夫だ。」


大希の大きな溜息が聞こえた後、そろそろと忍者のように3人は部屋を出て行く。

この先の部屋に家政婦さんたちがいる。

そこで止めてもらえたら…


寝たふりをやめて、急いで起き上がって、ついつい裸足のまま部屋を出た。

普段の習慣と違うから、靴を履くのを忘れてしまった、恥ずかしい。

そして、頼みの綱だった家政婦さんたちの姿がない。

ソファーで藤崎だけが寝ている。

朝の支度で美羽の所に行っているのか…?

だからこそ、朔と大希がコソコソ入って来ることができたのか…

靴と上着、それから薬を入れた鞄を取りに少しだけ戻って部屋を出る。

既に3人は下の階に降りて行った後か…

朝日が昇ったばかりの空を窓から見下ろす。


止められる余地は十分にあったのに

どうして止めなかったんだ

止めなければいけなかっただろう?

なにかあったら、どうするつもりだ!?


自分自身を責めながら、エレベーターに乗り込んだ。







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