焦がすほどの陽光が眩しい季節12
「ちゃんと、音が出ますねぇ。さっ、大翔くん!」
朔はニヤリと悪そうな笑みを見せる
なにを企んでいるのか…
「えっ、オレ?」
「話していた楽譜、持ってるんでしょう?さっさと下さいな?」
大翔は渋々、リュックからクリアファイルに大切そうにしまっていた楽譜を数枚取り出して、朔に差し出す。
自分の知らない間に何を話していたのか?
能力の有無は関係ないとして、同じく歌を愛して歌う者同士、通じ合うものがあったのか?
「びゃくちゃんほど、上手くないですが、あたしもそれなりにピアノ弾けるんですよ。たいちゃんお手伝いお願いしますね〜。よく、知っている歌でしょう?」
「…わかったから、その呼び方やめろって。」
なにをするつもりなのか検討はつかないが、白夜を巻き込む訳でもなさそうだし、黙って見守ることにする。
朔の指先から、楽譜の上の音符が旋律になって次々とうまれる。
それは、とても、とても懐かしいものだった。
親友とうたったうた、だ。
紛れもなく。
大希の声がその旋律に乗る。
そして朔に促されて、大翔の声も重なる。
上手くないって言ってたのに、ちゃんと音も外していないし、様になっている。
流石に幼い頃からレッスンを重ねている大希には及ばないが…
歌い終えて拍手すると、大翔は照れ臭そうにはにかむ。
こんな、出来損ないの父親でも、背中を追いかけてくれていた。
そうだ、きっと憧れだったんだ。
…なんだか恥ずかしいけど…
「びゃくちゃん、やっぱりあたしの音はイマイチだわ…次からはしっかり頼みますよっ!」
朔の事を見上げて、うとうとと頷きながら、白夜は目を瞑って眠りに落ちていく。
結局その日は、ここに泊まることになった。
明日は振替休日だったが、大翔は帰る選択をしたから柊の家の車で、家の前まで送り届けてもらった。
着いて行きたい気持ちはあったが、白夜を置いては行けないし、彼女に…元妻に再会する勇気は相変わらずない。
夏休みはレッスンをすると約束をした。
本気の夢を応援しよう。
結果はどうであれ、やってみないとわからない。
朔と大希は、ここに泊まる選択をして、美羽がそれぞれに、ここの階にある好きな部屋を借りて良いと言ってその通りにしていた。
美羽もこの階の別の部屋で、星夜と宿泊している。
そしてまさか、自分が白夜の隣で一晩過ごす事に、なるなんて。
お手伝いで来ている家政婦さんたちも、もしもに備えてメインルームで休んでいるんだし、呼吸器に何かあればアラームが鳴る設定になっているから、普通に寝ても問題ないのに、慣れない広い部屋という事も重なって、眠れるはずもなく、窓の外が薄らと明るくなるまで目が冴えていた。
ようやく寝れそうな所で、静かに静かに細心の注意を払った感じで扉が開く音がしてコソコソと足音が2つ部屋に入って来た。
「びゃくちゃん、おはようございます。」
「朔、大希、おはよう。」
とりあえず目を瞑ったまま寝たふりをして、黙って聞いていることにした。
こんな早朝になにをするつもりなんだ…。
これは絶対に悪い事だろう。
決め付けるのは良くないのか?
ガタガタ、ドタドタ、ガタガタ、ドタドタ
今すぐ目を開けたくなるような音が次から次へと耳に入ってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます