焦がすほどの陽光が眩しい季節8

 他の部屋を使ったり、戻ったりする時に使う用にと、この階のマスターキーを預かった。

どんどんと夜へと向かって行く窓の外の景色を目に映す。

花火大会までは、あと1時間ちょっと。


せっかくだし外に出てみるか…?


エレベーターでエントランスに降りると流石に人が多くて賑やかだ。

笑顔が多く咲いている。

みんなが、みんな、それぞれに楽しい時間を過ごしているんだろうな。

目的もなく歩いて、たまたまメインの出入り口ではなく、ビーチ側の出入り口を見つけてそちらから外へ出ると、ふわっと潮風が香る。

静かな時なら、波の音もすぐに聞こえるのかもしれない。そんな時に、またここへ、白夜と来たいと思えた。

せめて波の音を聞かせてあげたい。

息抜きができたし、もう戻ろうと、来た道へと早歩きで引き返す。

どうやら、中へ向かって歩いているのは、自分だけか?人の流れに逆らっている。


「父さん!?」


急に知っている声に、呼び止められて足を止め、振り返ってその声を探し、顔を上げる。


「やっぱり父さんだ!父さんも花火大会に来てたんだ!?」


自分の耳は間違ってなんかいなかった。


「大翔、なんでここに?」


「それ、こっちのセリフだけど?」


「えっと、仕事だよ、仕事。」


「なんだ、父さんらしいな。」


スマートフォンを覗くと、まだメッセージは入っていないから急ぐ必要はなさそうだ。

ここにいると、人の流れを遮ってしまって邪魔にしかならない。

これ以上人の迷惑にならないように大翔の手を引っ張って隅っこに移動する。


「……大翔、1人で来たの?」


「うん、そうだけど?」


「高校生がこんな夜に……ちゃんと、連絡はしてるんだよね?」


相変わらず返す言葉が、かたいのだろうか?

でも、こんな風に心配するのは

親としては当然だろう?


「……ここの近くのライブハウスでバイトしてるんだよ、そのついで。帰るのが遅くなるのは、ちゃんと連絡してるから、大丈夫だって!」


「ライブハウス…?」


息子の口から聞く初めての単語に驚かない、わけがない。


「先輩から、稼げるし歌の特訓にもなるって勧められて…。」


「聞いてないよ?」


「教えてないし!」


真面目な顔で叩き付けるように、そう言われて、そこから言葉が出てこない。

元々言葉を捻り出すのが苦手なんだから、これで普通といえば普通なんだが、こんな時には、本当はなんとかしたいものだ…。

ざわざわと横を通り過ぎて行く人々の声が、なんだか、こんな自分を責めているように聞こえてくる。ただの被害妄想。


「今度会う時に、こんなに歌えるだって見せつけて、父さんを本気にさせたかったんだ!!」


「あ……」


そうだ……

大翔は決して生半可な気持ちではないのだと思い知らされる。

本気にしてあげられなかった。

本気だなんて、思っていなかった。

本気だって、思いたくなかった?







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