焦がすほどの陽光が眩しい季節6

「ヤマさん、外に出たい!」


話しも聞こえてない、か…。

全面窓の外には、オシャレなカフェのテラス席のような木製のテーブルと緑の椅子のセットが備え付けられた広いバルコニーがある。


「……わかったから、今は、まずお昼ご飯食べて休もうね?朔ちゃんと大希くんが来た時に、起きれなかったら楽しめないよ。」


そう説得してようやく大人しく身を預けてくれた。

少々、脅しになってしまったか?


その後すぐに、以外と庶民的な茹で海老とトマトクリームのパスタがメインのランチが運ばれて来て、白夜と海を眺めながら軽くお喋りを交えて食事をした。

食べ方がわからない物が出て来たら、どうしようかと思っていたから、その点は非常に助かった。

普段縁もない、こんな場所で仕事ができて、美味しい昼ご飯も付いて来るなんて…

これは今の専属看護師の特権というべきか…

普段の仕事では絶対にあり得ない。

 食事の後は、隣のベッドルームへ移動しようと、既に眠そうな白夜を車椅子に乗せて部屋を歩く。

隅から隅まで歩くだけで自分のアパートの部屋より遥かに広いのが笑える。


「あ、ヤマさん、待って!」


「どうしたの?」


部屋の端っこで古びたアップライトピアノを見つけてしまった。

海ばかりに気を取られて、どちらも存在に気が付かなかった。

ただこれはアンティークなインテリアとして置かれているような感じで、実際に使えるのかはわからない。


「……後で触ってみてもいい?」


「うん、じゃあ、休んだら。」


「はーい。」


聞き分けが良くて助かった。

元気がまだ残っていれば、きっと今すぐに触りたいと言って、困り果てていたかもしれないな。

そのまま進んでベッドルームにようやく到着する。

なんて、広さだ。

こちらの出窓からもビーチが見える。

それにしても、この部屋も随分と、お金がかかっていそうだな。

壁には細かくレリーフが施され、床は、こった刺繍の入った落ち着いたブラウンの絨毯だ。そこに2人で寝ても十分過ぎるほど大きなベッドが2つ。

ちょっと柔らかすぎて身体が沈んでしまうのが欠点だ。

横になってすぐに、たまっていた疲れがどっと襲って来たのか、白夜はコトンと眠りに落ちていった。

このまま診察をしようかと、思ったけれど、脈も呼吸も落ち着いているし、様子を見ているだけにして、起きたら改めてそうしよう。

今は賑やかな夜に向けて、少しでも多く体力を回復しておかないと…。

白夜の顔にかかった髪を寄せて撫でながら、そういえば美羽に言われて最低限でまとめて来た自分の荷物を車のトランクに置いたままだと、どうでもいい事を、ふと思い出した。

そんなの、本当にどうでもいいんだが…


能力者として生かされているのではなく、自分の為に新しい経験を積んで過ごしている時間は、穏やかで楽しく、そしてなにより幸せでいてほしい。


外のビーチの賑やかな雰囲気とは真逆でここは静か過ぎて、お腹もいっぱいだし眠くなってしまう。




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