焦がすほどの陽光が眩しい季節5
美羽と星夜とは別の車だったので、学校に行くのと、さほど変わらない感覚だったが、ビルの群れを抜けた辺りで、今日は海なんだと実感する。
そのまま、1時間ほど見慣れぬ景色の道を走って、海岸線に出る。
出発してすぐは、お喋りして、うるさいくらい元気だったが、移動で疲れたのか、着く頃には、とても静かになっていた。
既にどこも歩行者が多く、露店もあちらこちらに出ている。
しかし、車は会場付近を通り過ぎ、なかなか止まらず、ようやく止まったのは、上が見えないほど巨大な高級リゾートホテルの駐車場だった。
庭には南国のような木々が本物のジャングルでもイメージしているのか、アシンメトリーに植えられ、トラの立派な銅像があって、蔦の生えたアーチをくぐると人口の滝がすぐ目の前で流れ落ちている。
太陽の光をキラキラ虹色にして反射するステンドグラスが特徴的なエントランスには、思ったほど人はいない。
白夜は、車椅子に座っているのがやっとで、もう景色を見回す余裕すらなさそうだ。
美羽は走り回る星夜を、ボディーガードの大柄の男たちに任せてこちらに歩み寄る。
「ヤマさん、最上階を全て貸し切ってあるから、安心して白夜を休ませて?海も花火も部屋から見えるから。それとランチは部屋に持って行かせるわ。」
美羽は上を指差して説明して、それからカードキーを手渡してくれた。
ようやく意図がはっきりした。
海も花火もここから眺めるのか…
これなら、潮風や夜風にあったりしないし、花火の大きな音もそんなに聞こえない。
さらに、人混みの中に入る必要もない。
そもそも良い場所を探して場所取りをするような庶民と元々の考えが違うんだ…。
それにしても上から見る花火なんて50年近く生きてるくせに、初めてで、なんだかワクワクしてきた。
「わかりました。」
「何かあったら連絡して?私は星夜と、あちこち見て回りたいの、押し付けてごめんなさい。」
「いえ、いえ、おかまいなく。」
美羽と別れて、足早に車椅子を押してエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押すと、一気に上がって数秒で到着する。
白夜に「もう少しで着くからね。」と声をかけつつ美羽に渡されたカードキーの番号の部屋を探してキョロキョロ…
とんでもなく大きな扉の部屋が、その番号の部屋だった。
もしかしなくても、コレってスイートルームというやつか……。
中へ進むと、瞬く暇もないようなどこもかしこも豪華絢爛な宮殿のような内装もそうだが、とにかくオーシャンビューの180度全面窓が1番に目を引く。
すぐ手の届きそうなところに砂浜のビーチがある。
この景色の支配者になったような気分だ。
「ヤマさん、海だ!」
「あ、うん?」
あんなにぐったりしていた白夜が顔を上げて明るい声を出したから驚くわけがない。
「…もっと近くで見たい!」
「近くで?」
これで近くなったかはわからないけど、窓際まで車椅子を押した。
すると、窓に手を突っ張って、白夜はぐいっと立ち上がる。
「あっ、白夜くん!?ダメだって!」
こっちの声は一切届いていないようで、目を見開いて一面の青に、すっかり打ちのめされている。
「……すごい、これが本物の海…。」
慌てて身体を支えるが、もはや自分は空気でしかないようだ。
「白夜くん、驚く気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着こう。苦しくなっちゃうよ。」
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