焦がすほどの陽光が眩しい季節4

 もう1日授業があって、週末になる。

花火大会は日曜日だ。

かなり大規模なもので、毎年、他県や海外からも大勢の人々が集まる。

土曜日はその分休むようにと、繰り返し伝えて、自分は1人対策会議。

というか、美羽も世間に顔を知られているから、人混みに紛れるのは難しいのでは…と、気付くと、また更に悩みが増えて一気に老けそうだった。

いっそのこと、大雨でも降って中止になればいいのに、と、思ったのだが、天候を操れるはずもなく、日曜日は快晴になった。


「おはよう白夜くん。」


「おはよう、ヤマさん!」


ベッドに転がったまま、スマートフォンの画面を眺めていたようだ。修学旅行から戻って来た朔や大希とメッセージをやりとりしていたのだろうか……?


「とっても元気そうだね。」


「もちろん!」


花火大会は19時からなのに、学校に行く日よりは遅めとはいえ、朝から来てほしいと呼ばれて、しっかり真面目に応えた。

美羽の意図は何度考えてもわからないけれど、まずは、診察をして、ゆるゆると出掛ける準備をするか…


今日も窓際に飾られた花々が目に刺さるほど鮮やかだ。

家中の花々は、いつも、あちらこちらから一方的に貰うんだと、言っていたっけ。

だから、ほとんど、ただ派手なだけで、センスがないのか…?


「……ヤマさん、俺、海に行くのも、花火大会に行くのも初めてなんだ!」


声の音色だけで、とても楽しみにしているのが伝わる。


「そうなんだ。楽しいかもしれないけど、あんまり、はしゃいじゃダメだよ?」


だけど、相変わらず、こんなことしか返せない。何かもう少し気の利いた事が言えたら


「はーい。」


こんな、棒読みの適当な返事をもらう事もないんだろうな、


「それでさ、朔と大希も呼んだんだ!」


「そっかぁ〜。さて、一旦、お喋りここまでにして、ちょっと診察してもいいかな?」


「今日すごく調子良いんだ!だから、全然大丈夫だと思う!」


「本当に?」


「本当だって!」


本人の自己申告なんて当てにしていないけれど、確かに見た目だけは、いつもより元気そうではある。

診察の結果はいつも通り。

悪くはなっていないけれど、良くなる事もない。

だから、これ以上悪くはならないように…。

それが自分にできる唯一の事。

手を止めたら、なんだか不安にさせてしまいそうで、1度も手を止めず、早めに診察を終らせる。


「……大丈夫だった?」


「うん、いつもよりは元気だね。」


扉をノックする音がして「どうぞ。」と、声をかける。

軽めの力のないコンコンは、確実に美羽だと自信があった。


「……ヤマさん、支度をするわよ。」


ほら、正解だ。

振り返って美羽に目線を送る。


「美羽さん、さすがに早すぎませんか?今から夜までだと、白夜くんの体力持ちませんよ?」


真面目な意見というか、真実だが…


「……大丈夫よ。白夜も早く行きたいわよね?」


伝わらないし…


「もちろんだ!」


そもそも白夜は、花火大会の恐ろしいほどの人混みを知らないのだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る