焦がすほどの陽光が眩しい季節3

 この日はその後、何度か欠伸をしていたものの、もう1時間だけ岡崎の所で、見守られながら、自習をして、元気なうちに柊の家に帰した。

帰り道も、ずっと「お願いだから!」と、言われるが、その度に首を横に振るしかない。その勢いのまま帰ってすぐに部屋を尋ねて来た、美羽に「海に行きたいんだ!」と、何度も訴えて、ついつい力が入って咳が止まらなくなってしまうほどだ。


「……本当、馬鹿!」


呆れかえっている美羽の気持ちが、わからなくもない。

でも、それ以上に、熱意に揺れる。


「……美羽さん、ぼくが…ついて行きますから、少し見せてあげるくらい連れて行けませんか?」


ついつい、そんな事を口走ってしまった。

苦しそうにしていた白夜が、少しだけ笑みを見せてくれた。

この顔が見たいが為に、なんだってやろうって思えるんだ。

医療従事者としては、完全にダメな事をしているのかもしれないけれど。


「……まったく、しょうがないわね。週末に花火大会があるの!!星夜と行くつもりだったけど、白夜も連れて行くわ!」


「花火大会?……美羽さん、それはちょっと…」


美羽の思いもしない、とんでもない返しに、驚くわけがない。

花火大会なんて、必ず人も多く集まるんだし、何を言ってるんだこの人は!?

体力も抵抗力もないんだから人混みに連れて行けるような状態じゃないのは、美羽も知っているはず、それなのに?


「ヤマさんが、ついて来るなら、全然大丈夫でしょう?ちょうどよかったわね、白夜。」


「えっ、ええっ!?待って下さいよ!?」


いいや、全然大丈夫じゃない!

残念過ぎることに、それ以上うまくツッコミを入れれるほど、言葉巧みではない。

ニヤリと笑う2人の顔が、本当に瓜二つで、そっくりだった。

義理の親子の前に、従姉弟なのだから、そう見えても不思議ではないのか…。


「そうとなったら、体調崩してられないわよ!しっかり寝るのよ!」


ベッドで横になっている白夜の頭をさらさら撫でて、お互い満足そうに微笑み合ったかと思えば、腕時計に目をやって、「大変!」と呟いて、バタバタと忙しそうに、美羽は部屋を出て行ってしまう。


「美羽さん待って下さいって…もう…」


こちらは溜息しか…

いや、もはや溜息も出ないな。


「…ヤマ…さん…ごめん…でも…」


「白夜くん、まだ、喋らないで。」


白夜は小さく首を横に振る。


「…でも……ありがとう、」


どうしても言いたかったのだろうけど、また少し咳が出る。

花火大会なんて、絶対にどう頑張っても、無謀過ぎるんだが……

海だけ見せに行くはずが、どうしてこうなるんだ。

頭を抱えたって仕方ないのに、頭を抱えてしまう。


それにしても、花火大会なんて、いったい、いつぶりだろうか……

もう何年も、縁のない行事だったな…。


賑やかで眩しい屋台の並びでまだ、幼かった2人を見失って…

2人で大騒ぎしたあの日の事が、チラリと蘇った。








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