煌めく雫が大地を潤す季節16
「白夜くん、ぼくなんかは、救わなくていいんだよ。ぼくは……ぼくは…」
捨ててしまった家族を思い浮かべ、今朝の大翔の表情とぶつかって胸が痛い。
「……ぼくは、思ってるほど、いい人なんかじゃないよ。むしろ…」
「それで……いいと…思う。いつも…そばに…来る、人間は…みんな…機械…みたいで…だから……今は…ヤマさんが…隣にいてくれて…本当に嬉しい…。ヤマさんが…いなくなったら…困るんだ。」
恥ずかしかったのか段々小声になってはにかむように小さく笑って、冷たくなりかけた心を、ほんわかと照らしてくれる。
「……でも、本当にひどいやつなんだよ。ぼくはね、家族を……」
言いかけたところで、白夜が真っ直ぐ目を見て急に首を強く横に振るから言葉にブレーキがかかる。
「…身の上話しは…この部屋では…しない方が…いいですよ。全部…見られてるから…」
「えっ…。」
驚いて、腕をするりと離すと、白夜は自力で起き上がろうとするから、ついつい手を貸してしまった。
起き上がっただけで、苦しそうにしているから、素人が見ても具合が良くないのがわかるくらいだ。
「白夜くん、起きない方がいい…。」
背中を撫でようと手を回わすと、そのまま胸に飛び込んで抱きついてきたから、さらに驚いて目を丸くした。
「……なんか…さくより…しっくりくる…。あったかい。」
とても迷ったが、腕を回して、こちらかも抱きしめることで、こたえることにした。
そうだ、お互いに足りなくて、今すぐ必要だったものが、まさに、これだったのだ。
本当は抱きしめたかった家族を、白夜で感じてるなんて最低でしかない。
でも…
白夜も、こうやって抱きしめて欲しかった家族を自分の体で感じているんだろう。
美羽とは、絶対にこんな風には、できないだろうし…
ぼくは家族を捨て切れてなんかいなかった。
きっと、心の隅ではずっと、願わくば、あそこに戻りたかった。
でも、それすらも面倒くさいって思った。
馬鹿で自分勝手で、どうしようもない。
大翔が思い出させてくれた、大切な想い。
大翔を通じて、これからを模索しよう。
彼女とも、また……
2度と一緒にはなれないだろうけれど、それでも、一生家族だ。
自分の中でケジメをつけたい。
そして、白夜も、また、この広い家で孤独を抱えている。
いずれ夢を叶えて立つステージの上で朔ともっとたくさん笑えるように、輝けるように、体だけじゃなくて心も支えていこう。
こんな風に甘えられるのも悪くはない。
能力なんて、立場なんて、もう関係ない。
どうでもいい事に縛られるのはやめよう。
たいせつなものに、変わりはない。
家族も白夜も。
朝の雨は数時間の小雨で済んで、煌めく雫の季節は真っ青な空に虹がかり、またひとつ進んで過去になっていく。
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