煌めく雫が大地を潤す季節14

 結局話しは出来ず、ただひたすら睨み合いになってしまってしまった。


布団を敷いて、ここで寝ていいからと伝えて自分は床に転がった。


朝起きると、着信履歴が何件もあった。

全部あの人から…

大翔は布団は使わず、部屋の隅っこで丸くなって寝ていた。

そっと毛布を掛けて寝顔を覗く。


大きくなっても、なんら変わらず可愛いもんだな…。


困った事に、こんな時でも電話で直接話す勇気は出ず、迎えに来るようにと、ショートメールを入れ、静かに浴室に移動して眠気覚ましついでに少し冷たいシャワーを浴びる。


今まで、会うのもその都度、適当に理由をつけて断って来たし、最低な事しかしていないのに、今更、大翔はなぜ…


考えても考えても答えは見つからない。


シャワーを終えて部屋に戻ると大翔は何もない冷蔵庫を開けていた。


「……もしかして、お腹空いた?」


そういえば朝ごはんの事を考えていなかった。

まだ時間もあるしと、よく行っている近所の24時間営業の牛丼店に連れ出す事にした。

道中も会話もなく、だからと言って、なにを話していいのかもわからない。

ご飯を食べている間もしばらく会話がなかったが、痺れを切らした大翔の方から声をかけてくれた。


「…あのさ、父さん…。」


「…帰りたくないは、ダメだよ。もうすぐ迎えに来る。…こっちも仕事に行く時間になるし…。」


「あの…オレさ…」


ついつい自分の都合を押し付けたせいで、また下を向いて、会話がなくなってしまった。

自分の子どもとも、こうなのだから、他所の子どもと上手くいくわけもない。納得だ。


「……ごめんね。…いつもこうで。」


「…うんん、父さんらしい。」


なんだかおかしくなって自然と笑い合えた。

この雰囲気にやっと話しやすくなったのか、


「オレ、父さんみたいに…舞台に立ちたいんだ。うたはカラオケでも下手くそなんだけど…」


自分の元に来た理由を話しはじめてくれた。

大翔には、赤ん坊の頃、沢山歌を聞かせたっけ…

いや、そうじゃなくて…


「ほ、本気で言ってるの!?」


「本気だ、本気だから父さんのところに来たんだ。高2になって進路を決めなくちゃいけなくなって…悩んで悩んで、見つけた道なんだ。」


「ぼくの所に来ても、知っての通りコネとか使えるような立場じゃないよ?……それに、舞台の上はキラキラしているだけじゃない。どっちかというと、辛い方が多いかもしれない。」


これは経験者としての事実。

けして、嘘ではない。

何時間も練習を積み上げて、舞台の上にいるのは数十分だ。


「わかってる……それでも進みたいんだ。」


自然発生した能力が遺伝する事はない。

遺伝家系とは違って子には能力は繋がらない。だから、自分みたいにスカウトで近道するなんてことはできないだろうし、まず、舞台に立つ為の少ない枠に入れるように努力が必要になってくるだろう。

それに耐えられるのだろうか…


着信を知らせるアラームが鳴る。


「……迎え来ちゃったみたい。それに、そろそろ仕事に向かう時間だし…大翔も学校に…」


「また来てもいい?オレは本気なんだ。歌のレッスンもしてほしい!厳しくてもいい!」


「…レッスンかぁ…。」


別に趣味もなく、休日だって、特にやる事もないのだし、と、軽い気持ちで引き受けてしまった。

電話番号を適当な紙に書いて渡すと、すごく嬉しそうな顔をした。

白夜のこんな顔も好きだったが、それ以上に、なんだろう…愛おしい?











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