煌めく雫が大地を潤す季節12
穏やかな時間が過ぎて行く。
こんな時間ばかりなら……
だけど
楽しい時間は、いつもあっという間だ。
読みたかったという小説を2冊借りて、仕事に呼び出された朔と、その場で「また、明日。」と別れた。
もちろん、ハグを交わして、いつも通り最後の最後まで別れを惜しんでいた。
相変わらず仲が良いなぁ…。
柊の家に戻ると、大きな庭の片隅で家政婦さんたちと遊んでいる星夜がすぐに目に入る。
星夜は白夜の姿を見つけて
「お兄ちゃま!お兄ちゃま!」
すっ飛ぶようにこちらに向かって来るから、急いで白夜を守って受け止める。
「星夜くん、元気だねー。よーし!」
抱き上げてそのまま、星夜の身体をぐーんと腕を伸ばして空へ掲げると、高い声でけたけた笑う。
懐かしいな……
2人とも同じように自分の腕の中で笑っていた。
とても、可愛くて愛おしくて……
なのに、なのに……
「ヤマのおじさん!もっともっと、たかい、たかーい!」
「ええっ?もっと!?」
楽しそうな星夜を眺める白夜も笑って、とても楽しそうにしている。
「星夜、雨が上がってご機嫌だなっ。」
「うん、お兄ちゃまも、うれしい?」
「もちろん、嬉しいぞ。」
「うれしい、うれしい!」
家政婦さんたちに名前を呼ばれると、星夜は腕からするりと離れて、また忙しそうにパタパタ走って行った。
「…さあ、白夜くんは、そろそろ部屋に戻ろうね。」
白夜は、走って行く星夜を目で追って、悲しそうな顔をする。
「俺も、もう少し動けたら…星夜と走ったり一緒に遊んでやれるのに…。せっかくできた家族なのに、何もしてやれない。悔しいし、もどかしい…。」
「………。」
せっかくできた家族を見捨てた自分には、かける言葉が見つからない。
母は知らない…
父は実家に自分を置き去りにして、他所で新しい家族をつくっていた。
祖父母と叔母は優しかったのに、どこか馴染めなかった子供時代。
舞台に立つようになって、自分を置き去りにしたはずの父が自分に縋るようになった。
それが嫌いだった…
あの人に出会った時、やっと自分にも家族が出来ると思っていたのに……
そこは、どうしてか、自分にとって居心地の良い場所ではなかったんだ。
「ヤマさん?」
「……ごめんね。」
うまく返事ができないまま、答えを濁すように部屋へと急いだ。
戻ってからも疲れをみせず、調子が良さそうではあったけれど、無理はしないようにと、口煩く言って、読書や勉強、楽譜を書くのは、ほどほどにと、続けた。耳にタコができるくらい聞いているとは思うけど、嫌がったって何度だって言う。
だって……
「……ヤマさん!」
「どうしたの?」
白夜は急にベッドの上を座ったまま、のそのそ動いて、ピアノに向かい、蓋を開ける。
「白夜くん、今日はもう、休んで…」
「休むのはヤマさんだ…。」
家族の事が脳裏に蘇って、いつも通りでいられなかったようだ。
…見透かされてしまった。
自分の方が支えなければいけない立場なのに。
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