煌めく雫が大地を潤す季節11

 結局その後は、美羽には会えなかった。

家政婦さんたちに状態を伝え、そのまま少しくだらない話しもして、すぐに病院に戻った。

病院に戻る途中で、あんなに降っていた雨がどんどん小降りになっていた。

それから午前中は、通常の勤務に集中する。

どんなに集中していても、困った事に頭の片隅には常に白夜の事があって、離れたりはしないのだけど…


昼には、予報通り雨が上がり、綺麗な虹までかかっていた。


昼休みに、ご飯を食べてスマートフォンでニュースを眺めているとタイミングよく白夜本人から電話がかかって来て、どうしても来て欲しいと言われ、午後からは再び、急ぎの呼び出しという事にして、柊の家に出向いた。


あながち嘘ではないし、仕事をサボっているわけではないから別にいいだろう。


「ヤマさん、学校行きたい!頼むから連れて行って下さい!」


天気が良くなったからなのか、朝、起きられなかったのが嘘だったかのようだ。

目をぱっちり開けて元気そうにベッドの上に座って、我儘を言う白夜が子供らしくてとても微笑ましかったが


「……今から行っても、午後からの授業には間に合わないし、放課後に学校に行くのは、ちょっと変だよ?」


冷静に返事をする。


「……変なんですか?」


「うん、わざわざ放課後の為に、学校には行かないかな?」


ベッドに備え付けられた机の上には、学校の漢字ドリルと書きかけの楽譜がごちゃごちゃと置かれていて、あの書類も全て封筒に戻されて隅っこにある。


「……じゃあ、少しだけ外に出るのはダメですか?せっかく晴れたのに…」


「…外に…?」


「そうだ!図書館に行きたいんです!」


「図書館ねぇ…。一応、美羽さんに相談してみようか?」


「本当に!」


何か裏がありそうな感じもするが、せっかく体調も良くなって、しかも、いい天気になったのだから、少しくらいなら、と思えた。

家政婦さん伝いで美羽に相談を持ち掛けたら、難儀することなく、案外すんなり許可を得る事ができた。

以前のショッピングモールでの事もあるし、今回も疑って当然だろう、と、思っていたのに。

 図書館に着いて車を降りると、白夜は陽の光を浴びて、気持ちよさそうに腕を伸ばし

て深呼吸をする。

ここが都市部ではなくて郊外なら、交通量も少なくて空気が綺麗なんだけどな…。


小さな頃に住んでいた祖母の家が、まさに、そうだったな…


そういえば、白夜も、自分と同じで産んでくれた母の事を知らないのか…?


境遇は全く違うのだけど……


それに、白夜には育ての母が…美羽がいる。


「さく!」


考え事に浸っていたら、よく知っている人物がこちらに手を振って向かって来る。


「あらあら、びゃくちゃん、偶然ですねぇー。」


「…そうだな、偶然だな?」


会話が不自然で、演技が下手くそな役者のようだ。

お互い笑いを堪えられなくなって笑いだす。


「2人とも計画的犯行なのは知ってるよ。ちゃんと悪さをせずに、大人しく図書館で本を読むなり、勉強するなりしてね。信じてるからね?」


「「はーい。」」


なんとなく信用ならないような返事をもらって、一緒に笑ってしまう。


図書館に入ってからは、ちゃんと静かにして隣に並んで本を読んでいる。





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