煌めく雫が大地を潤す季節10

 また次の日もまだ雨が続いていた。

予報では昼には晴れるらしいが、朝の時点では、そんな気配は微塵も感じないくらいの雨だった。

そして、白夜は今朝も不調で、学校に行くどころか、起こすのすら、躊躇うくらいだった。


1度声をかけて起こしたものの診察している途中で再び眠って、今は、すっかり深い眠りの中にいる。


「……美羽さん、さすがに今日は休ませましょう?」


窓際の棚に色とりどりの花を生けた大きな花瓶を、家政婦さんたちと、せっせと飾りつけている美羽の背中に声をかける。


「……そうね。また、病院に行く事になっても困るものね。」


「あの、白夜くんに、預かり物なんですが……。」


美羽を通して渡す事には抵抗があったが、本人がこんな状態で、だからと言って自分が、ずっとコレを持っているのは、なんだか気が引けたから。

でも、もしかしたら悪い事をしただろうか?

美羽は作業をやめて、差し出した封筒を両手で丁寧に受け取ってくれた。


「……誰から?」


「……学園長からです。」


美羽は一瞬顔を歪める。


「……知り合いなの?」


「…腐れ縁です。」


詳しく話す必要はないだろうと、それだけ伝えた。


「どうりで…卒業生で今でもプロダクションに一応所属している私でさえも入れてくれない、あの学園にすんなり入れるのね。」


「あ、美羽さん!?ちょっと…」


美羽はビリビリと、何の迷いもなく封筒の封を手で切って中を開く。

さすがに中は本人に直接と、思っていたから、その行動は予想外で驚いた。


「いいでしょう?…保護者なんだから。」


「いや、そういう問題では……。」


中には数枚の書類が入っている。

こんな古風なやり方で一体なにを……

美羽は一通り目を通してから眠っている白夜の方に目線を送る。

数秒間のどこか不安そうな顔を、見逃せなかった。


「……これは、ヤマさんも見ておかないとダメな内容ね。」


仕方なく中に入っていた書類に、一緒に目を通す。


「……えっ…。」


「本人が言い出したのかもしれないけど…また、馬鹿な事を…本当に困った子ね。」


そこに書いていたのは、夏休みに学園内にあるシアターで朔と大希と共に一般公開でのライブを行うことを許可したというものだった。


「……ライブなんて……」


あの人は、無謀なの事を知っていて

なぜ許可を…


ああ、そうか…

そんなのは簡単か…

Sの力の利用に決まっている。


美羽は書類を机の上にパサっと投げるように置く。


「……あれほど目立たないようにって言ってるのに、なんで自分の立場を理解していないの?確かに好きな事をしてもいいとは言ったけれど…馬鹿だわ、馬鹿!」


眠ってる白夜に向かって吐き捨てるように言い放って、そのまま部屋を少しイライラを発散するようにウロウロして、足をやっと止めたかと思えばさっさと家政婦さんを引き連れて、こちらが呼び止める間もなく、部屋を出て行った。


眠り続ける白夜の顔を覗く。


力の存在を知らない一般の人間からしたら、白夜は、病弱な子供にしか見えないだろうし、Sの能力なんて目に見える物でもない。


なのに、美羽はどうして、白夜が人前に出る事をあんなに拒むのだろうか…。


目立つ…といえば、この神秘的な真っ白な髪の色くらいか?

お年寄りの白髪ともまた別物で違う、白…。


学校にいる間も、たとえ保健室で寝ていても帽子を絶対外さないし、髪を一房だって、はみ出さないように念入りに押し込んではいる。


とても綺麗な髪なのに…

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