煌めく雫が大地を潤す季節9

 雨の中、急いで柊の家に白夜を帰して、眠っていくのを見届けてから、美羽は不在という事で、家政婦さんに今の状態を軽く説明して、バタバタと病院に戻った。


それにしても雨が止まない。

夕方からさらに強まったような気もする。


帰る準備をして、暗くなった廊下へ出る。

じばらく行くと、今の時間帯は誰もいないはずの従業員の通用口に続くだけの廊下に、誰かがこちらに向かってくる足音が2つして、思わず足を止める。


「やぁ、優司ゆうじくん。」


自分を下の名前で呼んだ、その声は、昔とあまり変わらない独特の魅力を放つ音色を持っているから、すぐに誰だかわかった。


「……桜先輩、なぜ、ここに…」


こちらの話しには返答せず


「違った、今は…柊くんの…Sの子の専属看護師のヤマさんだね。」


面白そうに笑って言う。


だから冷静に


「……貴方も今は護桜学園、学園長ですね…。」


対峙するように返した。


桜の一族は、能力者を統べる家系。

あの学園で、能力者を表向きには護ってはいるが、裏では沢山利用しているんだ。


そして、この人も元能力者で……


「……柊くんは元気?」


「……知っての通りです。」


「……愚問だったね。」


歩み寄って来て、何かを差し出されるが、受け取るべきか迷っていると


「…朔ちゃんからの依頼だから。柊くんに渡しておいて。わたしは、学園の中でも自由に歩けない身だからね。」


そう言って大きな封筒を一方的に押し付けられ、仕方なく受け取った。


「そろそろ、行かないと娘に怒られちゃうから、また今度、ゆっくり話そう?」


「……貴方と話す事なんて…。」


話しの途中だったが、たぶん側に控えている影の霧桜きりざくらの家の者だろう。

それに連れられ、あの人は煙のように姿を消した。まるで忍者さながら。


遺伝家系の高能力者ではなかったから、立場上詳しくは、知る事ができなかったけれど……親友は自分の知らないうたを

血を吐くほどうたっていた…。


まさに、命を削っていた。


勝手にあの人を恨んで憎んで…

「それでいいんだよ。」と、あの人は言っていた。


真相が知りたい。

昔も今も、高能力者の家系かれらが、本当は何をしているのか、うたの力が抑止や救済だけではないのは薄々知っている。

このままだと一生、誤魔化されてるだけだ。


一度踏み込んだのだから、それはあの家で、確かめる事ができるかもしれない。


再び歩みを進める。


社員証で退勤の処理をして、透明なビニール傘を手に持つ。


そういえば、あの人…


子供なんて居なかったはずなのに…?


ただの記憶違いか?


伴侶がうたの能力に命を削られ若くして亡くなっても、高能力者を繋ぐ為に、同じ家系の中から、すぐ違う適任者を見つけ側におくような人たちだから…

あの家も…

美羽だってそうじゃないか…


浜野が以前言っていた「同じ人間だと思うな」という言葉の意味を今更、理解したような気がした。












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