煌めく雫が大地を潤す季節8

 演奏を終えた白夜に、思わず大希と共に拍手を送ってしまうくらいに、聞き惚れていた。

速くなった呼吸をバレないように抑えて、平然を装って次の曲へそのまま突入する。


「……白夜くん、ここまででやめよう!保健室に戻ろう?」


勿論、気付かないはずはなく、止めてみるが、こちらの話しは、もはや聞こえていない。

今度は手を伸ばして声を掛けようとしたところで、大希に肩を叩かれ止められる。


「……これが、紛れもなく…白夜の唯一無二のなんだ。」


「……うた…。」


そうだ、白夜の音色は

どんなテンポでリズムでも

心地良くて、惹かれるものがあって

心の底から、幸せな気分がどんどん溢れてくる。

心に染み渡る。

場合によっては涙が出そうになるくらい。


この、うたを、もっと多くの人に届けられたら、それはそれは、大きな力になるだろう。


そのまま声をかけたいのを我慢して大希と見守っていると、4曲目の途中で演奏が突然止まって、慌てて駆け寄る。


やはり限界か…


どんなに苦しそうでも、再びその手は鍵盤を求めている。


うたをうたいと、言っているんだ。


だけど、今はこれ以上は…


「……大希くん、急いで保健室に戻りたいから手を貸してくれる?」


大希は黙って頷いて、快く引き受けてくれた。

お陰で思ったよりも早く保健室のベッドに戻す事ができた。

ほんの少し動いただけで酸欠に陥る身体は、どう考え直しても限界が近い事を表している。そんなことはない、そんなことは…

そうじゃないと…自分が思いたいんだ。


好きな事をさせてあげたい気持ち


だけど、こんなふうに苦しませたくない気持ち


それが心の中で絶えず、ぶつかっていた。


「……ヤマさん…ありが…とう。」


「……楽しかった?」


白夜はニコニコ笑って頷く。


「…それなら、よかった。じゃあ、これで、今日は、もう帰ってもいいよね?」


笑みは消えてしまったが小さく頷く。


「……白夜くんのピアノと朔ちゃんのうた。合わさったら本当に最強なんだろうね。」


「…ステージに…立ちたい…。ま…た…あの時みたい…に、朔を…俺の…音で…輝かせ…たい。」


弱々しい身体とは正反対の強い意志がその瞳の奥にある。


そんな瞳で見つめられたら、答えが出てしまう。


だって、美羽も最初に会った頃…

ああ言っていたじゃないか……

だったら、その通り白夜の想いを優先させてあげようじゃないか。


いいや、答えは最初から決まっていた。

もう既に出ていたんだ。


朔とステージに……か……


今は味方も1人増えたしな…。


ただし、こんな事で命を落とすことは絶対にあってはならない。

最後なんかじゃなくて、ここからがスタートにしないといけない。


そこは、養ってきた知識と技術をフル活用するんだ。


だから、絶対に、そうしてみせる。








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