煌めく雫が大地を潤す季節6

 2人が帰った後は、疲れたけれど満足で、でも、どこか寂しそうな顔をしていた。

「すぐに学校で、また会えるよ。」と伝えると「そうだけど…」と、濁りのある返事をして、布団をかぶってしまった。


やはり、あのことか…


でも、自分に出来ることは相変わらず何もない。どんなに必死に探してもだ。

結局は無力という壁に当たる。


 あんなに晴れていたのに、再び学校へ登校する日は、前日の夜から、また大粒の雨が降ってるジメジメと蒸し暑い朝だった。

ついに、本格的に梅雨入りしたらしい。


「おはようございます、美羽さん。」


「おはよう、ヤマさん。」


美羽と家政婦さんたちと業務的な挨拶だけを交わして、白夜の部屋に足早に向かう。


静かに扉を開けると、雨の音が心地良さそうに珍しく白夜は、まだ夢の中にいるようだった。

今までなら、学校に行く日は、必ず張り切って起きていたのに…

もしかして、昨日の夜、楽しみで寝られなかった?

躊躇いながらも名前を呼んで声を掛けると、ようやく薄目を開ける。


「……ヤマ…さん?」


「……学校行けそう?」


学校という言葉に、ようやく目をパッチリ開けるが、返事はない。

診察をすると、やはり雨の日は調子が悪そうだ。風邪が治ったばかりだし、雨の中の移動だって大変なのだから、まずは無理をさせずに休ませる選択が1番だろうと思った。


しかし、そんな提案をしたところで、本人は変わらず首を横に振るだけだった。

忘れかけていたけれど、こうじゃないと。

なんだか、心配と不安ばかりだったが不思議な事に安心ができた。


学校に着いてからは、すぐに教室に行きたそうにはしていたが、説得して、納得してもらった上で、保健室に登校する事にした。

保健室に到着すると、河村が大希と共に笑顔で出迎えてくれた。


河村と大希と久しぶりに楽しそうに会話を弾ませているが、聞き手にまわっている方が多く、やはり調子は良くないようだ。

そういうのが、すぐにわかってしまうのも、なんだか困ったものだ。


休み時間になって朔が尋ねて来た時には、「疲れた。」と言って、ベッドに横になっていた。

これは早々に帰した方が良さそうだ。

2人だけになりたいという我儘を聞いてあげる事にして、カーテンを閉め切ってそこから出る。よっぽど小声で話さない限り、会話はほとんど全部聞こえるし、これなら大丈夫だ。今は、悪巧みできほどの元気もないかな?


「……さく、ごめん。」


「いいんです、びゃくちゃん。それより!やっと歌詞が書けました。聴いてもらえますか?」


「ここで?」


「さくちゃんに不可能はありませんから!ではでは、いきますよぉ!」


「…あんまり、大きい声、出さないんだぞ?」


「はい、はい、任せて下さいな!」


やや小さめの声で朔が歌うのは、虹がかかった雨の後の優しい日差しのようなメロディのうた。


うたっている声も普段の声も、女の子の声にしか聞こえないのに…

まさか朔が男の子だなんて、いまだに、信じていないし、信じられないし。











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