煌めく雫が大地を潤す季節4

「……あの、ヤマさん。」


改めて呼ばれてベッドのそばまで歩み寄って、腰を下ろす。


「どうした?どこか具合悪い?」


「……やっぱり、なんでもないです。」


聞き方をまた失敗してしまったようだ。

身体の具合の心配ばかりじゃなくて、本当に大切なのは、やはり心の具合だろうか。

せっかく、大希とも親しくなって来たのに、また少し学校に行けなくなったんだから、寂しいに決まっている。


たった1人の病室は、誰だって泣きたくなるくらい静かなのだから…。


「…どんな些細な事でも遠慮なんていらないんだよ。気兼ねなくなんでも言ってほしいなぁ…。ぼくは、白夜くんの味方だよ。」


「……そう言って、みんな…力を利用したいだけだった……。こんな力いらない…ただ、ひたすら、朔と好奇心の赴くままに好きな音楽をつくりたい…。」


目がピタリと合ったと思ったら、布団の中に逃げられてしまった。


「……そうだよね。こんな力……自分自身には害しかない。」


親友も、この力で…

若くして命を失ったのだから…


布団の上から撫でようとしたら、急にひょこっと顔を出す。


「……ヤマさんも力を無くした人なんですよね。じゃあ、力の無くし方!教えてくださ…」


白夜は喋っている途中で、咳が出てそれ以上は喋れなくなった。

力の無くし方は、この年齢の子に、詳しく話すには、ちょっと厳しいというか恥ずかしいというか…。


聖なるモノを失うにはある一定の穢れが必要なんだ。


熱はあれから上がったりはしていないが、油断して悪化させるのは絶対に避けなければいけない。

幸い咳は軽くすぐに止まってくれた。

また、すぐに声を出そうとする白夜の先を越して


「……白夜くん、すぐ学校に戻れるように、頑張ろうね。だから、今は少し…休もうね。」


そう言って止める。

納得してくれたのか、頷いたように見えた。



美羽が来たのは、だいぶ、夜遅くなってからだった。

それまで素直に、白夜に付き添って病院に居たら、当たり前だが浜野に怒られてしまった。


それから数日、微熱が続き、熱が下がったのは4日後。

それでも高熱にならなかったのは、これまた奇跡のようなものだ。

その間、久しぶりに病院での勤務をしていたが、なんだか変な気分だった。

これが、今までやって来た普通の業務なのに、どうしてか違和感しかなった。


毎日、鬱陶しいと思われているかもしれないけれど、白夜のいる病室を尋ねている。


美羽は多忙で、家政婦さんが交代で着替えやその都度必要な物を持って来る程度で、殆どあの広い部屋で、ひとりぼっちになってしまっている。

本人は、慣れている、と、言っていたが、心配でたまらなかった。

浜野に「すっかり父親みたいだな。」なんて、言われたけれど、自分に父親を名乗る資格はない。

実の子を愛せなかったのだから…





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