煌めく雫が大地を潤す季節3
「とても賑やかな子でしたね…。」
「彼はいつもよ。特進B組、榎 真実くん……」
河村はそこまで普通の声で喋っていたのに、続きは立ち上がって、耳元でひそひそ小声で
「…特進クラスにいる、もう1人の未満力の子よ。実は柏くんとは幼馴染なの。」
そう、教えてくれた。
未満力の子はどっちかというと、ほぼ普通クラスに進むのが当たり前で、特進クラスに未満力の子が2人もいるのは珍しい方だ。
自分が学生だった頃は、特進クラスには1人も居なかったし…
カーテンから大希が申し訳なさそうに顔だけを出す。
「あの…すみません、白夜が…。」
「あ、起きちゃった?」
あんなに賑やかだったんだから、起きて当然か……
聴診器だけ手に取って中へ入ると、目を覚ましているものの、どこかいつもよりボンヤリした感じの白夜がいる。
まだ、頭が痛いのか…?
「……ヤマさん、帰りたくない…。大丈夫だから、もう少し学校にいたい…。」
小さく呟くように言って、また目を瞑る。
明らかに様子がおかしい。
「ヤマさん、オレからもお願いします。」
まさか大希からもお願いされるとは…
「……大希くんにお願いされても、わかった、とは、すぐに言えないんだよなぁ…ごめんね。」
「…新聞、話ししながら、一緒に書きたいのに…。」
大希にとって、白夜は、すっかり大事な友達になってくれたのか…?
「まずは診察してみるから、大希くんは、ちょっと出てくれるかな?」
「……わかった。」
大希は素直に言う事を聞いて、心配そうに白夜を何度かチラチラ見下ろしながら、静かに出て行った。
診察する前に、他にどこが具合悪いのか尋ねても、返答は「帰りたくない。」の一方通行で、さらに困るだけだった。
手を触ると、いつもは冷たい白夜の手が、ほんのりあたたかい事に気付く。
もしかして、と、河村に体温計を借りて熱を計ると、案の定37℃台の微熱があった。
ただの風邪だとしても、白夜にとっては命に関わる可能性がある。
担任と美羽に連絡をして、大希にも、誤魔化さずちゃんと具合いが良くない事を伝えて、この日も急いで病院へ真っ直ぐに向かってもらった。
外の移動は、自分が濡れても、なるべく白夜だけは雨に濡らさないように細心の注意をはらった。
熱の原因は、風邪のようだと浜野の診察も同じ結果だった。
浜野は加えて、熱が自然に下がるまでは病院にいるようにと…。
すなわち、ここまで頑張っていたが、しばらくは学校は休む事になる。
こればっかりは仕方ないが、なんだか可哀想にも思える。
美羽が話しを聞きに来るまでは、一緒に居てもいいと言われて、病室に戻ると、いったい何をしていたのか、白夜は慌てた様子でバッと掛け布団をかぶった。
点滴のおかげなのか?
思ったよりは、元気か?
「白夜くん、なーにしているのかな?」
布団からひょっこり顔を出して
「…何もしてません…。」
そんな事を言う。
いやいや…
掛け布団と敷き布団の間から何枚か、楽譜がはみ出ているのを、見つけてしまったが…
いつの間に…?
鞄はベッドから離して置いているし、またポケットにでも入れていたのか?
それにしても、まずは学校にいた時よりも元気そうで本当によかった。
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