花が散り穏やかな風の吹く季節15

「もしもし…朔ちゃんかな?」


「大正解です。……あの、ヤマさん、びゃくちゃん…具合悪くなったりしてませんか?」


電話の向こう側は思った通りの相手だった。

朔はとても優しい子だから、心配で心配で、たまらなかったのだろうと、簡単に予測がつく。


「大丈夫だよ。」


「……よかった…。全部あたしが悪いのだから…びゃくちゃんを怒らないで…。美羽さんにもそう伝えて下さい。」


「……残念、もう怒られちゃったよ。」


「あら、手厳しいわね。」


「2人のうた、とても良かったよ。でも、2度とこんな無茶苦茶な事はしないんだよ。」


「ではでは、正式にデビューして、正々堂々と2人でステージに立たせてもらいます!」


まさかの返事に、ただただ驚く。


「えっ!?」


「さくちゃんとびゃくちゃんは、誰がなんと言おうと本気の本気ですからっ!!」


朔はそう言い放って


「あっ、朔ちゃん!?」


一方的に電話を切ってしまった。

白夜の寝顔に目をやって力ない笑みをこぼす。


帰り道も電車でと、思っていたが、家政婦さんたちが気を利かせてくれて、丁寧に自宅まで車で送り届けてくれた。

美羽はあれから、顔を出してくれないから、相当怒っているんだろう。

次に顔を合わせるのが気まずいな…。


それからの数日の休みは特にやる事も予定だってあるわけもなく、ダラダラと過ごして、あっという間に長かったはずの連休は終わりを迎えた。


病院しょくばに着くと、珍しく既に浜野の姿があった。


「おはようございます?」


普段こんな朝早い時間に出勤するのは自分くらいで、まだ院内は夜勤の者が仕事をしている。


「おはよう。ちょっと、これを見ろ。」


パソコンの画面を差し出され目をやると、ネットニュースにあの日の写真付きで驚くような内容が記されている。


「朔ちゃん……白夜くんと…。」


見出しは護桜学園の注目の、男の娘アイドル椿 朔太郎、親友のピアニスト柊 白夜と共に新たなステージへ、月と太陽の天才ユニット。


文章を読んで、頭を抱える。

困った事に何度読んでも、間違いは無さそうだ。


「……Sが舞台に上がるなんて、前代未聞。どうなるのか楽しみだな。」


「……舞台なんて…」


2人が本気なのは、しっかりと伝わったが、待て待て、それ以上に驚くべき事実が多すぎるぞ!?


朔ちゃんが、男の子!?


本当の名前が朔太郎!?


「これ、本物のネットニュースですか!?1ヶ月以上ズレたエープリルフールなのでは!?」


「何を言ってるんだ、偽物のニュースがネットに大々的に載るわけがないだろう?」


「そ、そ、そうですね…。」


そう…

穏やかな風が吹く季節は

これから訪れる

穏やかではない日々の、本当のはじまりでもあったのだ。




















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