花が散り穏やかな風の吹く季節14
一瞬で惹き込まれていく
繊細で優しい旋律に合わさるように混じる芯の強い澄み切った美しい歌声
心の全てが浄化されるような気分だ
もちろん自分だけじゃない、この場にいる人間、誰しもが、そんな尋常じゃない清らかさに息をするのも忘れそうなくらいで、ピタリと体を止めている。
まるで、神々が住まうような神聖な空間。
聖域と言ってもいいくらいだ。
これが最上級の能力。
それに、巧みな技術が調和して見事に重なっている。
ゆったりした曲が終わると、反転してスピード感のある曲に変わる。
あの楽譜の…!
楽しそうで、幸せそうで、お互いを見つめ合う視線が忘れかけていた親友と立ったステージの上での熱い想いを思い出させる。
止めたい気持ちが揺らぐ。
「もう、こんな事だと思った!」
すぐ背後から現れたサングラスをかけて、帽子を深くかぶった女性は紛れもなく
「みっ……」
美羽だったが、出そうな声を押し殺した。
未だ現役の歌手で女優が、この人混みの中で身バレするのはまずい。
すぐに美羽の横にいた、柊の家のボディーガードというところだろうか?
屈強な男性たちが数人、歌が終わってすぐ、2人を捕まえ、さらには、その場も何もなかったかのように丸くおさめてしまった。
お陰で混乱もなく雑踏もすぐに解消された。
ショッピングモール側からのお咎めもない。
その後は、朔とは問答無用で引き離されて、それぞれ帰宅。
朔はどうなったか、知る術もないが…
こちらは、また美羽のお叱りタイムというわけだ。
無論、自分も一緒に。
確かに予告もなしにあんなに人を集めては危ないし、能力を安易に使う事は校則でも禁止されている。
能力の管理というのも、あの学園の存在理由なのだから。
言いたい事は十分理解しているが、今は白夜の体調の方が気になって、話しは耳に入ってそのまま流れていくだけ。
白夜本人の耳にも半分以上話しは入ってない感じ。ベッドの上でぼんやりと天井を見上げている。
「……はぁ…疲れたなぁ…とっても…疲れた…。」
「ちょっと、こんな時だけ病人のフリしないでちょうだい!?」
「……あの、美羽さん。元々、我々とは違いますから…ほどほどに…」
「ヤマさんは、白夜の味方なわけ!?だいたい、まんまと騙されて…あそこで聴衆に混じってただけでなんの役にも…」
白夜は途中で気を失うようにパタンと眠ってしまった。
「ちょっと、白夜!?」
慌てる美羽を冷静に引き離して、こそっと脈を測る。
「……大丈夫です。少し休ませてあげましょう?」
「……ホント、馬鹿!馬鹿よ!ヤマさんも!」
ズカズカ歩いて、やや乱暴に扉を開け閉めして、美羽は部屋から去って行った。
毛布を肩までしっかり掛け直して、乱れていた前髪をさらさら撫でる。
こんな身体でも、やりたい事に真っ直ぐで
全力でやろうとする心意気はなかなか真似できるものではない。
この子は、名前の通り、沈む事なく、周りを照らし続ける太陽なんだ。
「ん?」
また知らない番号からの着信だ。
もしかしたら……
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