花が散り穏やかな風の吹く季節12

 次の日は、一度は朝日の光を浴びていつも通り目を覚ましたのだが、どうせ…と、また布団をかぶって2度寝をしていた。

お昼近くになって、突然の知らない番号からの着信で目が覚める。

柊の家からの電話だと思って、慌てて起きたのに間違い電話か?

恐る恐る出る事にする。


「もしもし…?」


「もしもし、ヤマさん?」


聞き覚えのあり過ぎる声に驚いて


「びゃっ、白夜くん!?」


裏返った声が出てしまった。


「……そんなに驚かなくても…」


プライベートで使うスマートフォンの番号は、念の為に、と、美羽だけには教えたが…。

いったいどういう経路で知ったのか?


「ごめん、ごめん。直接電話かけて来るなんて、どうしたの?どこか具合悪い?もしかして、周りに誰もいないの?」


「あの…そうじゃなくて、一生のお願いがあって……」


「お願い?」


と…少し電話で話しを「うん、うん」と、聞いて、気付いたら外出する準備をサクサクすすめて、バタバタと電車に乗って柊の家に向かい、そして白夜の部屋にいて


「白夜!朔ちゃんと出掛けたいからって、なんでヤマさん呼んでるのよ!ヤマさんだって休みは休まなきゃいけないのよ。」


美羽から白夜と共に、厳しいお叱りを受けていた。


「だって、1人だと、どこにも行けない!行きたい所に今まで行った事すらない!」


「ヤマさんも、ヤマさんよ!はい、はい、そうですかって、簡単に来ないでちょうだい!調子にのるでしょう?」


「すみません…。あの、でも今日は仕事ではなくて…」


「仕事じゃないつもりでも、白夜と一緒なら自ずと仕事をしなきゃいけなくなるでしょう?」


美羽の言っている事があまりにも正論過ぎて、言葉を見失う。

こうなると、ちゃんとわかっていて、どうして来てしまったのか…。


いいや、

ここで引き下がったら来た意味がない。


ここまで来たなら、お願いの1つや2つ叶えてあげたっていいじゃないか…。


「……あの、美羽さん、長い時間は絶対無理です。頑張って1時間くらいだし、それくらいなら、ぼくも休みに支障はありませんから…。思い出の1つくらい作ってあげましょう?」


「……もう、好きにしてちょうだい。……車は学校に行くのと同じように手配するわ。あまり目立たないようにするのよ。」


大きな溜息を吐いて、部屋をさっさと去ろうとする美羽の背中に「ありがとうございます。」と、一言だけ急いで投げた。

嬉しそうにガッツポーズをする白夜に、同じようにガッツポーズで応えてしまった。


もはや、自分の子供と同じくらいに大切で、可愛くて…

こんな風に思ってはいけないとは、知っていても、自分自身を止められなくなっていた。


学校に行くのとは違って、リラックスした気分でのんびりと車に乗って、白夜は隣でずっと朔とスマートフォンでメッセージのやり取りをしている。


本当は2人きりになれたら、充実した休日デートになるんだろうな。

コレばかりは仕方ない。

なるべく邪魔にならないように、空気のようになろうと、心に決めた。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る