花が散り穏やかな風の吹く季節7

 白夜はそんな大希の方に、決して届きはしない心配そうな目線を送る。


「……やっぱりSって、すごく特別な感じだね!?」


「……俺だけ特別なんてない…。命の価値はみんな同じだ…。」


ひなたは握っていた手を離して白夜をまじまじと見つめる。

白夜は目を逸らさない。

お互いになにかを伝え合っているような…


そのまま沈黙があっても


「ひなたさん、時間大丈夫、2時間目始まっちゃうわよ?」


河村がしっかりと間に入る。

蚊帳の外になっているが、自分が入れば、ややこしくなるだけだろう、このまま黙っていよう。


「全然大丈夫ですっ。私はこれから仕事で、学校抜けちゃうから。」


「あんまり無理しないのよ〜。」


「はーい。それでは、大希をよろしくお願いします。」


河村に頭を下げて、白夜にニコニコ手を振って、勢いのままに保健室を去って行った。

まるで小さな嵐のようだった。

すっかり静かになった所で、2時間目の始まりを知らせる鐘が鳴る。


白夜の視線は、また大希の方へ向いてばかり。


こんな時はなんて声をかけたらいいのか…。


相変わらず気の利いた言葉は出てこない。


見かねた河村が立ち上がって、カーテンの向こう側に声をかける。


「……柏くん、相談室となりに行こうか?」


それではまた何の解決にもならない…

でも、そうした方が、今はまだ、いいのだろうか…?


大希の返事はないようだ。


「……ヤマさん、河村先生も…お願いがあります。」


「……柏くんと話しを…?」


真剣な眼差しをして、真っ直ぐに河村を見上げる。

大希を救いたいという想いに偽りはない。


だからといって…


河村も珍しく返答に困っているようだ。


再び静まり返っていきそうだったその場の空気を変えたのは、シャーっと音を立ててカーテンを開けた大希だった。


「柏くん!?」


驚く河村と、何もできずにいる自分の方を流すように睨んで、それから白夜を穴が開くほど、じっと見下ろす。


白夜は、その視線をただ受け止め、逸らしたりはしない。

先に目を外したのは大希の方だった。


「……やっぱり、敵わないなぁ…。」


落胆して失笑している。


もっと強い力が…


欲しいという気持ち


知らないわけではない


対価がいると知らなければ…

なんの、対価もなく手に入る力なら


誰だって欲しくなる


「…柏、待て!」


そのまま立ち去ろうとした大希の手を、白夜の手が、ぐいっと捕まえる。

そして、白夜は、すくっと車椅子から立ち上がって、大希の頬を両手の掌でそっと挟む。


「白夜くん!ダメだよ!?」


「ヤマさんは、そのまま黙ってて!」


少しの間立っている事はできるが、そんな普通なら当たり前の事でも体に大きな負担がかかってしまう。

だから慌てて歩み寄ろうとしたのに怒られる。

役に立たない自分を悔いているだけではダメだと、それでも動こうとすると、河村までも肩を叩いて止める。


「……柏、力が全てじゃない。……柏なら、力に左右されない人生も選べるだろう?家がなんだ?そんなの関係ない…?柏は…いや、大希は…大希でしかないんだぞ?勝手に決められてたまるかって、思えばいいだろう?」


大希は、ふらつく白夜を咄嗟に支える。


「…………。」


「それに、柏。死ぬのって、こんな俺でも…簡単じゃないんだ…ゲホッ、ゲホッ…」


咳が出て苦しそうにしている。

流石にこのままにはしておけない。


「…大希くん、ごめんね。話しの続きは、また今度で。河村先生、ベッドに運ぶので手を貸して下さい!」


「あらあら、大変!柏くんは、ちょっとそこで、待っててね。」


うたの力は本来声に備わっているものだから、常時発動するSは喋ることすら困難で、さらに多く命を削る。































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