はじまりの季節11
しばらく行くと、大きな門が見えて来た。
周囲を槍どころかミサイルが降って来ても崩れないようなほどの頑丈な白い煉瓦風の壁に囲われて、中の建物は外側からは一切見えない。
まさに鉄壁の要塞のようなこれは
『
表向きには幼稚園から大学まで、芸能分野に特化した私立の学園。
しかし裏では、うたの能力者の園でもある。
特に高等部には能力者しかいない。
ここは、とても懐かしい場所でもあった。
表の門からは車が入れないことになっているので、裏側のシアターがある方から車のまま中へ進む。
ここのシアターだけは、時より一般に開放もされている。
学園内で唯一、誰でも入れる場所でもある。
散り始めの桜が風に舞い、歓迎してくれているかのように出迎えてくれる。
駐車場で車を降りて、そこからは白夜の車椅子を押して徒歩で、テクテクと中等部の建物を目指して歩く。
外部の者は許可を得て入った者でも、本来はシアターより中へは進めない。
生徒の保護者、マネージャーですら、入るのが容易ではないくらいだ。
内側にも大きな門がいくも存在している。
特別な許可を簡単に得ることができたのは、卒業生というのもあるが、やはり元能力者ということが大きいのだろうか?
いや、違う
きっと、あの人と顔見知りだからか…
中等部までも結構な距離があるが、慣れた道だったので、別に苦ではなかった。
建物が見えて来て、すぐ、前方からこちに向かって走って来る誰かに気付き、足を止めて白夜の前に出る。
今、護るべきものを優先させる。
そう決めたから。
「びゃくちゃん!すごく会いたかったわ!」
ピンク色のリボンやレースがたくさんついたフリフリのお人形のようなワンピースを来た、有に180センチはありそうな背の高い、赤髪を左右にゆるく三つ編みにした…どう見ても女の子…?
「朔!久しぶりだな!会いたかった!」
「えっ…?」
白夜の聞いたことのない高く弾んだ声に困惑してしまう。
親友と言っていたからてっきり…
同性だとばかり思い込んでいたのに。
こんなに可愛い子と友達だったなんて?
この子があの、朔なのか…?
とりあえず身を引いて白夜の横に下がる。
白夜が手を広げると、朔は大きな体を屈ませて、磁石のようにぴたりと抱きしめ合ってハグを交わす。
2人はとても幸せそうな顔で見つめ合う。
友達……?
いいや、それ以上の印象しかないだろう。
でも、彼女は
高能力者同士の家は……
超えられない壁…
…もしかして、叶わない恋?
なんだか、こんな歳になっても、そういう話しには、なんだかドキドキしてしまう。
「……びゃくちゃん!さくちゃんは、ちゃーんといい子で待ってましたよ!」
「いい子?朔が?」
「さくちゃんは、普段からいい子です!」
普通の子供のように無邪気に笑い合って…
ついつい気を緩めてしまいそうになる。
だけど…
ちゃんと大人として、専属看護師の仕事をしている人間として
「朔ちゃん、お話しそれくらいでいいかな?ここにいると風に当たっちゃうし……。」
ケジメをつける。
「…….アナタが、例のヤマさん?看護師さんというより、ボディーガードみたいね?」
「それは、よく、言われるかな…」
あはは、と、笑ってみせる。
スポーツの経験は一切なくても、自然と身に付いた、がっちりしたこの体格の事は昔からよく言われるので特に気にはしていなかった。
むしろ、自分が選ばれた理由が、ぼんやり分かったような?
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