はじまりの季節7


 いよいよ早いもので、明日が始業式だ。


今日は一般の外来診察が終わる夕方に、白夜の方から病院に来る事になっている。


なんだか日曜以外の毎日、あの家に通っていたから、行かない日があると変な感じがする。

まるで、なにか大切な毎日の日課を忘れているかのようだ。

別に変ではないのだけどおかしなものだ。


病院でいつも通り外来内科の看護師としての仕事を終えて、休憩室で、ひたすら甘いだけの缶コーヒーを飲みながら、窓の外の満開の桜に、たまに視線をやる。

夕陽の淡い色と混ざって、桜はとても綺麗なんだろうけど、悲しい思い出しかない。

一度でも一緒にお花見に行ってあげられたら…


たらればを、今更心に浮かべても、過去は変えられないのに、どうしていつも…


時計にふと目をやる。


外来の担当者は、既に帰宅の時間だ。

残っているのは病棟の方の夜勤の者だけだろう。


今日は医院長の浜野が直接診ることになっているし、別に自分は呼ばれてもいないのに、白夜が来ている時間が気になって仕方がない。

こうなったら追い返されても構わない。

後悔だけはしないように行動しようと決める。


廊下に出ると既に電気が消されていて薄暗い。

表向きには本日の外来の診察は終了しているから仕方ない。


診察の室の前の静かな待合所の椅子に、ポツンとひとつの人影を見つける。


「……美羽さん、こんばんは。」


声をかけて近付くと、美羽は困ったような顔をして見上げる。


「……お疲れ様、まだ帰っていなかったの?表向きは日勤の看護師なんでしょう?」


声をかけたのは、まずかったかと不安になりながらも言葉を返す。


「……そうですが、帰ってもやることもないので。」


「……そうなの?」


「ぼく、独り身なので…」


隠す必要もないので、深く考えずにストレートに打ち明けてしまった。

美羽は驚いたような顔をする。


「……子供の扱いにもすごく慣れている感じだし、そんなことはないと思うけど?」


「……あはは……職業柄慣れてるだけです。子どもを相手にする機会も多いですから。」


これ以上は、美羽に教える必要もないだろうし、この場は笑って誤魔化すだけにする。

美羽も特にその先は気にしていない風に見えた。

それ以上話しの種も見つからず数分の沈黙…

それを打ち破るように、浜野がなんの前触れもなく扉をバンっと開けて、ここに居ると予想もしなかった人物の姿に目を見開く。


「なんだ!?山もいるのか?どうせだから一緒に入れ。」


浜野に手招きされ、戸惑いつつも、先に中へと進む美羽に続く。


診察室の中には、診察台の上で横になっている白夜がいる。

白夜は自分を見つけるとなんだか嬉しそうに微笑んでくれたような気がした。


美羽は黙って白夜に近付いて、開いたままのワイシャツのボタンを慣れた手付きで素早くかけて、終わったところでふわふわと優しく頭を撫でて愛おしそうに見つめる。


「さあ、白夜…帰るわよ。星夜も待ってるわ。」

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