はじまりの季節6
ついつい紅茶を飲みながらクッキーをつまみ、結構な時間、美羽と…時々、星夜も交えて談笑してしまった。
親として、同じ力を持っていた当人としても、美羽の好きな事をさせたいという熱い想いは、ちゃんと理解した。
だけど、やっぱり医療従事者としては……
揺るぐ心に気付いて、溜息ばかり出る。
自宅に帰る頃には、だいぶ夜も遅い時間になっていた。
誰からも「おかえり」をもらえなくなって、もうすぐ2年。季節が2回も回って、そろそろ慣れてもいいのに、ずっと寂しいままだ。
玄関の横にある照明のスイッチを押す。
数年前、自分に最高の笑顔で笑いかけてくれた2人の息子の写真がすぐに目につく。
いい加減、こんな物、飾っていないで物置きに封印して忘れたらいいのか?
つい、ここでも溜息が出る。
帰り道で買って来た半額になったスーパーのお弁当をぼんやりテレビを観ながら味もよくわからないまま食べて、お風呂に入ったら、すぐに、この日を過去にする。
趣味も特にない。
昔は、なんでも1度耳にしたら、気になってうたってみたくなっていたのに。
もしかしたら
自分の方が生きる意味がないんじゃないか?
次の日から、白夜の元に訪問診察に行くと、初日の無茶が嘘のように、ちゃんとベッドの上にいるようになった。
本を読んだり、春休みの課題をやったり、楽譜を書いたり、時々軽くピアノを弾いたりはしているものの、毎日とても穏やかに過ごしている。
そして毎回、元気な事をアピールするようなお喋り。でも、体調の方は診察すれば、簡単に真実はわかってしまう。
それに関しては、白夜は完璧に騙せていると思っているみたいで、まだまだ頭の中は年相応な子供でとても可愛く思えた。
数日間、無理をさせないように少しずつ、色んな話しをした。
特に楽しそうだったのが、唯一の友達だと言う「
幼い頃、初めて連れて行かれた能力者の会合で、知り合った同じ歳の同じうたの能力者の子供。
そのあと会合の度に一緒に過ごして、暇を潰す仲なんだと嬉しそうに語っていた。
普通、高能力者の家は機密主義で他の高能力者の家を拒む傾向があるという知識を持っていた。
だからとても珍しい事だなぁと思っていた。
会合に出るくらいだから、その朔という子供も、だいぶ高い力を持っているんだろう。
白夜は割となんでも気軽に話しをしてくれた。
普段、屋敷の家政婦さんが世話をする為に頻繁に部屋を出入りしたりしているのだが、淡々と業務をこなすだけだろうし、性別が違うこともあってうまく打ち解けられず、話し相手がこの家に居ないのもあるのだろうけど…
おかげで情が移るのは早かった。
止めようとばかり思っていたのに、困った事にいつの間にか、やれる事を自分の手で全力でやってあげたくなっていた。
あんなに揺れていた心の葛藤も、驚くほどスッキリと、もう、どこにもない。
ただ、力になって上げたい。
困った事に
その想いひとつだけになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます