残念王子【side:アリア】
ヴォルクが銀髪の少女と運命的な出会いを果たす数刻前。
アリア・セスタリックは城内の大広間のパーティー会場にて、行儀よく椅子に座らされていた。
また服装も桃色のドレス姿へ無理やり着替えさせられており、しっかり化粧まで施されていた。
「おい、あれって」
「アリア王女だ。パーティーに出てくるなんて珍しいな」
「……」
参加者の好奇の視線が突き刺さる。
本当であれば、ヴォルクと楽しいデートをしていたはずのなのに、実際は見世物になっている。
玉座のすぐ横に座らされていたため、表情こそにこやかにするよう努めていたが、心の中では「あのクソ親父っ!」と悪態をつきまくっていた。
「アリア、今日は我が国の建国記念ならびにアルスの生誕を祝うため、他国からも使者が来ておる。くれぐれも失礼がないように」
その様子を察したのか、彼女の父親である国王は釘を差すように耳打ちする。
(何かやらかしてほしくないのであれば、そっちで勝手にやってなさいよ)
アリアにとって兄の特別な日だなんて関係がない。
折角のデートが台無しとなり、彼女は虫の居所が悪かった。
「……承知しております」
しかしこうなってしまっては何を言っても仕方がない。
せめてこれ以上、面倒くさいことにならないようにアリアは口角をあげて仮初の微笑みを浮かべた。
「分かっておればよい」
完全な作り笑いだったのだが、彼女の父は満足した様子で玉座に戻っていた。
玉座の間に設けれらたパーティー会場は大勢の客で盛り上がっていた。
天井のシャンデリアは光り輝き、テーブルにはシェフが腕をふるったと思われる料理が所狭しと並んでいる。
まさにセスタリック王国の権威を見せつけるような光景。
国王は誇らしげに壇上から参加者たちに声をかける。
「今回は我が国の建国記念パーティーへの参列、心から感謝する。早速、パーティーを始めたいところだが、その前に我が息子アルスより一言挨拶させていただきたい」
そう言うと、彼はアリアの反対側の席に座っているはずのアルスへ目を向ける。
しかしそこにアルスの姿はない。
「あ、アルスはどこに行った?」
慌てふためき、右往左往する国王。
これが一国の主か。
滑稽な姿に思わず吹き出しそうになるが、アリアも一応この国の王女である。
笑いをこらえ、必死に真剣な表情を作り続ける。
「おや?もう始まってしまったかい?」
そんな時、広間に一人の男が入ってくる。
肩幅まで伸びた黄金の髪をたなびかせ、深紅のマントと純白のタキシードを身につけ、手には大小さまざまな宝石をこしらえた剣が握られていた。
この男こそ、セスタリック王国第一王子、アルス・セスタリックである。
「アルス!どこに行っておったんだ!」
「申し訳ありません父上。なかなか髪型が決まらなかったもので」
「髪型、だとぉ!?」
息子の言葉にわなわなと震える父。
しかし当の本人は悪びれる様子も見せず、ゆっくりとした足取りで壇上に登る。
「みんな、今日は僕のために来てくれてありがとう!そんな君たちの忠義のため、褒美として良いものを見せてあげよう」
大勢の注目を浴びて舞い上がっているのか、アルスは上機嫌だ。
そして、ゆっくりと剣のグリップに手をかけ。
「なっ、何だっ!?」
「それは……まさか!」
「刮目したまえっ!これが勇者にしか扱えない聖剣エクスカリバーの輝きさっ!」
その瞬間、会場内がまばゆい光に包まれる。
聖剣エクスカリバー。
勇者セレスが魔王との戦いの際に振るったとされる剣であり、セスタリック王国の国宝である。
そんな大切なものをこんなところへ持ち出して良いのかと思うが、それを咎める者は一人もいない。
重要なことはそんな聖剣を彼が引き抜いてみせたということだった。
「そして僕こそが勇者セルスの後継者、アルス・セスタリックさ!」
「うおおおおおおおっ!!」
会場から大きな歓声が巻きおこる。
また彼らの表情もさまざまだ。
目を見開き、剣の輝きを目に焼きつける者。
周りの従者と話し、今後の身の振り方を考える者。
それだけ勇者セレスの伝説、彼の名声は世界中に轟いているのだ。
「……どんな小細工を使っているのやら」
しかしアリアはそんな兄の姿を懐疑的な目で見つめていた。
確かにアルスは国王と王妃の子供であり、勇者セレスの血を引いている。
しかしそれであれば、国王と妾の子供であるアリアも勇者の子孫であろう。
彼が特別という訳ではない。
さらにアルスは剣も魔法の腕もからっきしであり、褒められたものではない。
仮に世界が滅亡の危機に瀕したとしても、兄には世界の命運を任せたくない。
アリアの偽らざる本心であった。
そう思ってしまうほど、アルスは勇者らしくなかった。
「さて僕からは以上だ。ゆっくりとパーティーを楽しんでくれたまえ」
「ま、待て!どこへ行く!?」
「決まっているじゃないですか父上。僕のことを待っている天使たちのところですよ」
アルスは早々と壇上から降り、扉の方へ向かう。
そこには取り巻きの貴族の子息たちと、王城に似つかわしくない露出過多な格好をした女たちがいた。
「それでは父上、僕は城下町の様子を見てまいります。民の生活を知るのも王族の責務ですから」
「待たんかアルスっ!アルスー!!」
国王の静止もむなしく、勇者の子孫は両手に女を抱き、会場の外へ消えていったのだった。
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