第41話 自白

第41話 自白


 命を吹き込んだ者を目の前にしての申し訳なさから真実を言わないのか?それとも、優しさから言わないのかは定かではないが、その見た目で作ってしまった事に申し訳なさを感じている様だ。


「さぁ、貴方は何者かな?」



 リンがゆっくりと問いかける


「.......分からない......」


 今にも消え入りそうな声でゆっくりと黒い物体が応える。


「分からないって。この件はコレで終わりにしよ?」



 それを見たシルの言葉にリンが納得できていない。


「よっぽど私に知られたく無い何かがあるんですね〜。この子が分からない方が都合の良い何かが...」


 思慮深く掌を見つめ、何かを閃いた様にハッと笑みを浮かべる。


「ねぇ?君はどんな事ができるのかな?教えて貰える?」


「僕?...僕に火を付ければ...煙が出る。煙を吸うと真実しか話せなくなる...」


「ふーん。なるほどね〜。君の正体分かったよ。今はゆっくり休んでね」



 シルとアイコンタクトをして、小さな三角フラスコを持ってきてもらい、それにコルクで蓋をした。



 火がついたら燃える性質のせいか、外界との接触が制限される瓶の中ではゆっくりと目を閉じた。


「はい。自白の魔法が込められた蝋燭はコレで終わりなんだから、もっと大事にしなよ」


「バレちゃったか。取り敢えず閉まっとくね」


 リンから手渡されたフラスコに小さなお札を数枚貼ると文字部分が鈍く光る。


「コレでもう大丈夫。暫くは休ませてあげられる」


「自白の魔法は理論が分かってない魔法。量産できないのに使ったの?」


「ごめんね。自白の魔法アイテムには思考を鈍らせる効果がある。それで心の悩みを包み隠さずに言って貰えれば良いかなって思ったの。友達に使っていい物じゃないよね」


 自分のした行いを恥じる様に自分の浅ましさを壁の中に収納するかの如く、押し込み閉める。


「聞けば話してくれるって思わなかったの?私達が嘘をつくと思ってたの?」



 そう話すリンの顔がどんどん悲しみに溢れていく。


「リン?」


「貴重な物を使わせちゃうぐらいシルを追い詰めてたんだね。それに気が付けなかった自分が一番許せないや」


 責めるどころか、自分を卑下するその姿はうまく例えようが無いのだが胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


「リン〜!叱ってよー。私、悪いことしたんだよ〜〜!」


「ちょっと抱きつかないで!ってか、鼻水汚な!」


 冷静沈着と言う顔立ちからは考えられ無いほど顔を涙や鼻水を垂らしながらくしゃくしゃにしてリンに抱きつき、サイレンの様に声を荒上げる。


 引き剥がそうとしても、ガッチリと首に手を回して引き剥がそうとしても剥がれない。


「別に私、怒らないよ。だって、それは私のことを考えてのことだし気遣ってくれたんでしょ?それを責めたりしないから...」


「本当は嘘つかれるんじゃ無いかって凄い怖かったからなんだよ!そんな事する訳ないのに!」


 慰めの声を掛けようとも、サイレンの様な鳴き声が収まる事はない。それどころかどんどん酷くなっていく。


 顔に鼻水や涙が付き、風呂上がりとは思えない程汚れていき体はシルの汗でピッチャビッチャになっていく。


「だ!か!ら!別に気にしてないって言ってるでしょ!いい加減泣き止んで!」


「だって!だって〜!」


 リンが声を張り憤りシルがナヨナヨした声でフニャフニャ泣き喚く。



 見た目が入れ替わってしまったかの様な事態でドンドンと収束が付かなくなっていった。


「だって!リンが優しすぎるんだもん!」



「私はいつでも優しいよ!お願いだから、見た目のキャラを守って!コレ見られたらギャップを遥かに通り越してドン引くレベルだからね!」


 クールな見た目のシルは普段から余裕のある姉御キャラ。フンワリとしたリンはあざとい程のユルフワガールだったのだが、素はこっちだ。


「いいじゃん。二人きりなんだし。それとも私の事嫌い?」


「え!!」


 不意をつくその一言で身体から力が抜けてマッサージ台に押し倒される。


 ゆっくりと目を開き、様子を伺う。不慮の事故であるからして直ぐに退いていると思いきやシルの顔が直ぐ近くにあった。


「ねぇ?私の事好き?」


「え!いや、そのなんて言うか...」


 胸が熱い。鼓動が耳を突き刺すように荒ぶっていくのだが、考えが纏まらない。


 ここでの好きとは、likeの好きなのか?それとも恋愛対象としてのLOVEの方の好きなのか?シルの真面目な表情が全てを語っていた。


「好き...です」


 リンの声が震え、身体の芯が熱くなる。まともに反応が見られず目を瞑る。意を決して薄く目を開くと幸せオーラ全開でにこやかに微笑んでるシルがいた。


「私も着飾らないリンの性格好きだよ!って...どうしたの?」


 先程まであんなに表情豊かだったリンの表情筋が全滅していた。顔からは生気が欠落し、今にも魂が抜けてしまいそうだ。


「別に?何でもない。ただ。勘違いした私がね」


「ごめん。意味わからないや」


その軽い一言でリンが反撃に出る。


「泣かせてやろうか!?物理的に!?」


「え?ちょ!痛い!痛い!引っ張らないで!跡になっちゃう!」


「可愛い声で泣きな!」


 ハリのあるシルの頬っぺたを思いっきり引っ張りながらドs心を解放させる。


「この後も接客するようなのに跡になったらまずいって!」



「温泉に入って基礎代謝を促進さそればつねられた跡なんて消えるから大丈夫!さぁ、浸かりにいくよ!」



「分かったから引っ張らないで!美味しいもの食べてないに頬っぺた落ちちゃう!」


「取れてもまたくっつければ良いよ!」


 その一言に肝を冷やしながら、リンはシルの頬をつねり引きずって行った。

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