第39話 再起不能

第39話 再起不能


「ねぇ?大丈夫何処か具合とか悪い?「


「大丈夫だから!今は何も聞かないで。お願いです」



「2人の時なのに、なんでけいご?」


 さっきまであんなにはしゃいでいたのが嘘の様にまるで借りてきた猫の様におとなしくなっており、縫い付けられた様にマッサージ台に伏せっていた。


「別に深く聞くつもりはないけど、要望とかある?」


「オッ○イ大きくして。シルよりも大きく」


「やっぱりさっきの事で拗ねてんじゃん。ただの脂肪の塊なんだから....」


「拗ねてるんじゃなくて、妬ましいの!何これ!?」


 跳ね起き、シルがサラシを巻いた胸をギュムッと鷲掴みにする。


「何であんなに大きいのにサラシを巻いてるの!?ねぇ?何で!?」


「そりゃあ、胸がデカくて邪魔だからでしょ?それ以外に晒しを巻く理由ってある?ってか、裸なんだから、全部見えてるけど?」


「そう言う意味じゃない〜!もういいから揉んで!私のオッ○イを3倍サイズに!」


「はいはい仕方ないな。多少痛んでも我慢してね」


 静かにそう言うと、不貞腐れてうつ伏せになったリンの背中に深く触れる。


「え!?ちょっと痛いってどう言う事?」


 キリキリと指に力を入れ、万力の様に力を込める!


「はぁあぁぁただい!いはぁたい!」


 気持ちいい波が押し寄せてくるのだが、直ぐにそれを越え、痛みに変わる。手を止める事なく背中の肉を胸の方に流していく。


「ちょっま!ちょ!はぁああ!」


「そんなに悶えてどうしたの?胸を大きくしたいんでしょ?だったら耐えなきゃね?」



 メリメリメリと骨なのか肉なのかは不明だが何かが軋む音が頭の中に響き渡る。



 カンカンカンとなる危険信号にも思えなくもない。


「育てたいけど思ってたのと違う〜!」


「揉めばでっかくなるなんて迷信だよ。でもこれなら、背中の余分な脂肪が胸に行くし大丈夫〜!大きく育つよー!」


「私が大丈夫じゃ無いー!」


「さぁ、あざとい喋り方は取れたし次はその腹黒さを曝け出しちゃおうか!」


 痛がるリンの腰に膝を乗せ、身動きを取れないようにしていきながら施術をを進めていく。


「ふぅ!久しぶりにいい汗かいたな!」


 汗ばんだ施術着を引っ張り、近くにあった水入りの瓶を開けてそれを啜る。


「どう?ちゃんと効いた?」


「頭がクラクラする〜」


マッサージ台に目を向けると足腰立たずに動くこともできないリンが伏せっていた。


「できれば、腹黒さも全部曝け出させようとしたんだけど中々うまくいかない」


「酷いよ!私が砕けて喋るのはシルの前だけなんだよ。それだけ信用してるのに」


「そ。興味ない」


 渾身の上目遣いを表情一つ変えずに否定する。


「私、渾身のデレを〜!」


「みんなの前でもそうやって喋れば良いのに。トロッコい喋り方よりもそっちの方が好きなんだけどな」


「駄目だよ。私が普段ゆっくりでしか喋れないのは頭の中で復唱した後に声にするから。じゃないと本音で色々な人を傷付けちゃう。言葉はね、見えない凶器なんだよ」


 その一言には今までの軽薄さや相手を蔑ろにするような感情は一切込められておらず、純粋に言葉の重さを語っていた。


「ふーん。まぁ、好きにしなよ。少なくとも私には汚い言葉で罵れるんだ。毒壺にもなってあげよう」


「それはありがとう。後、何で脱いでるの?」


 感傷に浸ってふと振り向くと上半身の施術着をから腕を出し、盛大にはだけるどころか晒しまで取り全てを解放していた。


「いや、久しぶりの施術で熱くなってさ。お風呂入ってこようかな?って」


「嘘だー!私よりもデッカい胸をじまんしてるんでしょ!?」


「そんなに変わらないでしょ。私の方が2カップぐらい大きいぐらいじゃない?」


「そんなに差がある!?もうやだ〜!」


「このやり取り何回やるの?さぁ、起きて。これ以上背中の脂肪を胸に回したら大変だからね」



 そう言っても返事はなく、ピクリとも動かない。



「ねぇ?聞いてるの?」


 ゆっくりと頭の方に近づいていくと違和感に気がつく。


「ねぇ?もしかしてだけど泣いてるの?」


そう問いかけた所で返事はない。ただ、透き通るほどきめ細やかな瑞々しい身体が震え、床には涙が滴っていった。


「別に!?泣いてない」


 少し顔を浮かせ口早に言うのだが、その声はしわがれて嗚咽を堪えていた。


「そう。泣いてないなら泣いてないって事で良いよ。勝手にしな」


そう言って、マッサージ台の空いているスペースに腰掛ける。


「だったら、私がここに腰掛けるのも勝手。独り言を聞くぐらいなら付き合ってあげる」


 施術着の下半身部のポケットにしまってあった黒いキセルを取り出しマッチで火を付けた。



 口にキセルのを含み煙を肺に入れ紫色の怪しい煙を吐く。



 なぜリンがそこまで自分の胸に拘ろうとするのか全くわからない。別に貧乳であってもリンはリンであり、シルの対応は何も変わらない。



 ただただ、泣き止むまで一緒にいることしかできなかった。



 というか、正直面倒くさい。自分が興味無いのにペラペラと他の者の話を聞くのはシルにとって苦痛でしかなかった。

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