第33話 身体のバランス

第33話 身体のバランス


「バーカ。私だって弱っちいよ。智に救ってもらえたから誰かを救いたいと思うようになっただけ。もし、そのエゴで苦しめていたならこんなになったのは私のせい」


 ギュッとシイナのことを抱きしめてゆっくりと語る。ホロリと大粒の銀色の涙が頬を伝って流れていく。


 まるで母親を思い出させるような抱擁に互いの心の中にあった蟠りが解けていくのを感じる。それを見守りながら部屋を照らす火の玉もうっすら笑う。



 部屋の隅に散りながら部屋を照らす。


「それを自白させるためにこの空間には自白を促す魔法を充満させたの」


 普通ならば聞かなかったことにするのが大人の対応なのだが、自白魔法のせいか隠せない。


「え?自白魔法!?ちょっと!?」


「まぁ、これからちゃんと魔漏症の治療をしてあげるからそれはチャラにして」


スクっと立ち上がり指をパチンと鳴らす。


 その瞬間にシイナの身体から再び力が抜けていくのを感じる。


「さぁ、部屋を満たして!」


 火の玉が一瞬強く光ると部屋にどんどん広がっていき、部屋の中に置かれていた蝋燭に灯り宙に浮かんでいく。


 蝋燭にはアロマが練り込まれているのか煙と共に落ち着く香りが部屋の中に充満した。


「さて、自白魔法はこれかな」


 白い蝋燭の中で一つだけ最初から灯っていた背が低く黒い蝋燭。それを手に取ると地面に落ちていた火が灯っていない蝋燭に火を移そうとしてはっとした表情でシイナに問いかける。


「この蝋燭には自白魔法が練り込まれてるんだけど、この蝋燭を消す前に私に聞いておきたい事とかある?今なら何でも答えるよ」


「ない。聞きたい事の答えは消された後でも変わらないと思うから」


「そう。シイナの本心も聞けたし、もう隠す必要はない。これからは体調の変化を感じたら直ぐに宿屋に来てね」


息で火を消し黒い蝋燭は空気に溶け込み静かに消えて行った。


「苦しく無い?」


「大丈夫。さっきの霧と言い、この蝋燭と言いどうなってるの?」


「これはね、シイナの魔力。さっきの霧は高濃度のシイナの魔力を気化させたの。それで体全体を魔力で覆って精孔から残存魔力の流出を防いだの」


「私の魔力!?一体どうやって!?」


「爆発を起こした時の魔力を雛野が空間魔法で閉じ込めて、爆発の威力を殺したの。それをお風呂に入っているうちに魔力加工して霧にしてみた」


「もし、威力を殺してなかったらどうなってた?」


「さぁ?未然に防いだし分からない。でも、未曾有の大災害になってたかもね」


 軽々とシイナをお姫様抱っこするといつの間にかそこにあったマッサージ台の上に乗せられる。


「じゃあ、このアロマキャンドルもそう?」


「違うよ。キャンドルは普通のやつ。灯ってる炎はシイナの魔力で精製したからシイナな魔力とシイナの中で生まれた感情を持ってるけどね」


「何悪趣味な物作ってるの!?」


「仕方ないでしょ?魔力の気化は時間掛かるし、性質を保ったままの精製は楽だから火にしたの」


「じゃあ、最初から炎の方でいいじゃん!?」


「そんな!霧で視界を塞いでおかないと主導権握られて、蝋燭責めとかされたらやり返してシイナの事をメチャクチャにしちゃうと思ったから」


「私情にかける技術が凄い!ってか、私のイメージそんなん?後、どこ触ってるの!?」


 手持ち無沙汰にへそ周りの鱗鎧が剥がれている部分を指で撫でてシイナの反応を探る。


「大丈夫だよ。私に身を任せてくれればね...。身体から力が抜ける暗示魔法も効いてきたでしょ?」


「滅茶苦茶不安しかないんだけど...」


「ちゃんと極楽道場まで連れて行ってあげるからね」


「どこに行かせる気だよー!!」


 そんな心配をしている内に先程火を移した蝋燭がゆっくりと浮かんでいった。



「今は苦しく無いでしょ?」


「少し変な感じはするけど大丈夫。後、私はマッサージ台の上で何されるの?私の治療なんだよね?」


 力を抜くのだが、裸同然の格好からか何処となく不安が湧いてくる。


「この私の格好を見てピンと来ない?」


「どっから見てもマッサージ師にしか見えない。魔法的な何かで治療するんだし、もう少し魔術要素がある部屋で...」


「だから、マッサージして治療するんだよ」


 麻紐で結ばれていた銀色の硬い髪の毛のポニーテールを一度解き、もう一度黒い紐で一つのお団子状に結ぶ。指先に魔力を込め竜の爪を顕現させる。爪に力を入れて部屋の壁をスライドし、中にしまってあった物を取り出す。


 中に液体の入った数本の瓶。それが腰ぐらいまでの銀色の台に載せてコロコロとマッサージ台の足元に付ける。


「え!?ちょ!どうやって?魔力にそんなアナログなアプローチで治るの!?」


「はいはい。もう、五月蝿いな。これだから生まれた時から魔力に頼ってる種族は。人が居た1万年くらい前?は魔力がこんなに世界に蔓延してなかったからアナログ治療の方が多かったよ」


「そんな化石みたいな方法って本気!?」


「本気よ〜。大丈夫。ちゃんとみんながお世話になってる。智に教わった治療法だから...」


「いや、あの人自体信用出来ないし!」


 そんな抗議に耳を傾けず、瓶の中の保湿クリームを馴染ませていく。


「逃げてもいいけどさっきみたいにはなりたくないでしょ?また板の鯉だと諦めて」



「嫌だー!」





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