第22話 束の間の休息
第二十二話 束の間の休息
『はぁー、美味かったー!もっと小さな虫は食べたことあるけど、魔物がこんなに美味しく食べられるなんて初めて知った!』
『セシンだっけ?刀ばかり打ってると中々食事はお粗末にしちゃうもんね。色々アンテナ張ってないと流行に乗り遅れちゃうよー』
『掌からバレたかな?』
『まぁ、自分たちを襲ったホーネットを食べるなんてイカれた事はあんた以外しないと思うけどなー!』
『あはは!スパイス煮込み作って私がご機嫌になったって勘違いしちゃった?あんまり大きな口を叩いてると、ある事ない事色々本部に報告してあんた達を重罪者にしちゃうぞー!』
『『『『アハハハハハハハハハハ!』』』』
お腹が一杯になり笑い合いながら談笑しているのだが、内容は殺伐としていた。
『さて、冗談はさておき。俺が作った料理はどうだった?』
『本音を言うと、そこまで美味しくはないけど、不味くはないって感じ!逆にホーネットはどうだった?』
『もう最高!口に入れた瞬間に解けて行ってこの世の物とは思えないぐらい美味しかった!』
今まで出来るだけクールぶっていたシュロウだが、留めが無くなったかの様に率直な感想を喋る。
『あーあ。そこで嘘言っとけば、俺たちも相手と同じ土俵に立てたのに。馬鹿だな、シュロウは』
『馬鹿はお前だよ。あんなにうまそうに食べていたら言葉なんかなくても満足したってバレちまう。俺たちはこの後この砂人のリザードマン次第で人生を決められちまう。それを甘んじて受け入れるしか無いんだよ。って、事で煮るなり焼くなり、俺たちの素性を聞くなり好きにしな』
リザードマンの女の子からの言葉に腹を括る。
『カッコつけてるところ悪いけど、素性は料理を囲んでいた時のやりとりで分かっちゃった!』
『え..?嘘でしょ?』
身体から勇気を掻き集め、大物ぶったのだがそれが小っ恥ずかしく思えて頭から湯気が立ち昇る。
『せめて、最後はカッコつく様に俺に言わせて!』
アニキ格の男が口早に言う。
『だーめ。貴方達3人は孤児院の運営人..でしょ?』
『あああぁぁぁぁあ。当てられた〜。もう恥ずかし過ぎて憤死しちゃう。あぁぁぁぁ!』
そして、恥ずかしさに悶える。
『何で分かったの?盗賊を押し通すのは無理だったかもしれないけど、そこまではドジ踏んでないと思うんだけどな』
激昂してあーとばかり嘆いている元アニキに構う事なくシュロウが冷静に聞く。
『強いて言えば調理の仕方かな。一つ一つが丁寧だった。人参の切り方一つとってもしっかり中まで火が入る様に隠し包丁を細かく入れたり、野菜の甘みを生かす様な味付けにしたりね。それと後は月光蝶かな』
『そんなに花ごと摘むのがおかしいのか?うちの元リーダーは綺麗なものが好きでね』
『えー、セシンはさっきまで寝ていたのに率先してそれを話すんだ。もしかして、孤児院にいる子供たちはレネゲイドで病院に行けない子なのかな?』
『もしそうだったらどうする?』
『叫ぶのはもういいの?子供は見た目が良くないと苦い薬を飲んでくれないから花つきにした。病院に行けないからどんな病にも効く月光蝶を取りに来たなら合点も行くしね。それも含めてレギオンに報告しようかな?』
外套の中を探り何かを探ろうとする。
レギオンに通報するために通信機を探っているのか分からないが身構える。
出した瞬間に破壊するのが目的だ。
『あ、やべ!』
懐から出てきたのは通信機ではなく、飾り気のない曲刀。道具屋で売っていそうな風貌だが、鞘には黒いインクで蛇をあしらった魔法陣が刻まれていた。
『全員ここから離脱しろ!』
その言葉を聞いた途端に部屋から二人が抜け出す。スルリとリザードマンの両脇に体を滑らせた。
普通であれば逃げられる筈もない。警戒している者の横を抜くなど不可能だ。
『照らせ!』
短くアニキ格の男が呟くと部屋を照らしていた二つのランプから白い光が溢れ出る。
『チッ!』
仕方なく目を覆い隠し、閃光を免れたのだがそこにはさっきまでの騒々しさはない。寂しい空間がそこに広がっていた。
『立入禁止区域に立ち入った三名は抵抗したのでやむ追えず始末しました。って事でいいよね?逃げたんだから、仲間も呼べない。規定に則って、陰獣で仕留めなきゃ』
ナイフの柄を握り勢いよく抜くと刀身に火を灯す。すると鞘に描かれた蛇の魔法陣が闇の中に溶け込んでいった
『二人とも急げ!追いつかれるぞ!』
『何であんたは三人分のバックパック背負ってるのにそんなに早いんだ?』
『鍛え方が違うからな!セシンはあの魔法陣見たか?』
『見たよ!レギオンの紋章だ!あいつは砂人兼レギオンなのか?』
『さあな?俺が知ってるのはあの曲刀!!彼女が一流の盗賊だった事ぐらいだ!』
ビュンビュンと洞窟の中を走り回り逃げるのだが、外套の中に隠れていたウィスプが可愛らしい警戒音を上げる。
『全員後ろを振り向け!』
その言葉と共に振り向くと闇に乗じて赤い目の何かがそこにいて、三人はそれに飲み込まれた。
消えゆく意識の端でリザードマンの女の子がいた。
『またね。シュテルン』
『相変わらずだな。師匠』
暗闇のせいで誰が口走ったのかは定かではない。
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