第17話 実技
第17話 実技
『シュロウ?いったいどうした!?』
うつ伏せに倒れたシュロウの体を仰向けに寝かせる。身体からは力が抜けてしまい糸が切れた操り人形の様にぐったりしていた。
『ホーネットの毒が完全に解毒できていなかったのか!?大量の水を飲ませて、薬草かポーションで直ぐにでも解毒しないとまずいな』
『でもアニキ、砂漠で大量の水なんてある筈がない!』
『薬草も夢のまた夢だな。さてどうするか?』
『私が治すよ』
『それでか?』
『まだ無毒の犬歯が一本抜けそうだからそれも合わせれば大丈夫』
大きな口を開き、獣の肉をすり潰すだけに生えているのではないかと思える程鋭い歯の数々。その中でも一番鋭い矢尻のような歯を掴むとぽろっと引き抜いた。
『流石がに二本あれば足りるでしょ』
『まぁ、行けるか。』
「それをどうするんだ?」
『ん?これを倒れているこいつにぶっさすんだけど...?』
その言葉を聞いた途端に顔から一気に血の気が引いていく。
『ちょっとアニキ、聞きました!?あんな太い物刺したら死んじまいますよ!シュロウが可哀想だ!』
『人ごとみたいに言ってるけど、アレ、お前も刺すんだぞ?』
『え?何で?』
『お前だって、毒に侵されてるんだから。な』
その言葉が終わらない内に背後に廻られ、身動きを取れないようにされる。
『じゃあ、やってくねー。えい!』
『ウエ!』
まるで酒のつまみのピーナッツを口に放り込むような手軽さで古い方の犬歯をシュロウの首に刺した。
刺された瞬間、断末魔にも及ばない奇声を発したと思ったらそのまま動かなくなった。
次はアレが自分の体の中に入ってくるのだ。
『じゃあ、サクッとやっちゃおうか』
新しく抜けたばかりの犬歯を携えゆっくりと歩み寄ってくる。
『いやー!まだ死にたくないー!』
『あんまり暴れるなよ。手元が狂って別のところに刺さっちまうぞ?』
『狂ってるのはあんたの頭の中だよ!何処に刺さったって、絶対痛いだろ?殺す気なの!』
『そうだけど、何か問題でも?』
一瞬自分の耳を疑った。一番信頼していたアニキにそう言われ、何かを反論しようとした気がするのだが、思い出せない。
喋るよりも前に、歯が首に深々と刺されておりそのまま何も考えられなくなってしまったのだ。
深い水の中に漂う感覚。暖かいようでそれを認識したらなくなってしまうように儚い。そんな感覚が体を包み込んでいた。
うっすらと光が差し込まれ、そこを目指して朧げな意識の中泳いで行く。
眼前に広がったのは、赤い石がゴツゴツとした洞窟。身体は重く、獣の皮の布団に寝かされていた。
『ここはどこだ!?一体何がおこった!?』
跳ね起き、自分の体を触り辺りを見回す。
直ぐ横にはセシンが自分と同じように傷の手当てをされ、上半身半裸で深く眠っていた。
『おう!起きたかシュロウ。少しこっちに来てくれ』
シュロウとセシンを纏めるアニキ格のドワーフの男は丸太を倒した簡素な椅子に腰掛け、鍋をかき混ぜていた。
『説明してもらっていいですか?寝てる間に何があったのか?』
鍋をかき混ぜる男の前に座り、ゆっくりと火を見つめる。
『そうだな。取り敢えずは、場所を移動した。ここはさっき落ちてきた洞窟の道にできた横部屋で、俺は約束通りうまい物を作ってる。身体はどうだ?』
『すっかり良くなってます。一体これは?』
『リザードマンの牙には摂取した体内の毒を溜める効果があるの。それで二人を治療したんだよ。生かしてあげたんだがらあなたのことを食べない証明になるでしょ?』
部屋の奥から、ランプを持ったリザードマンの女の子が、姿をひょっこりと表す。先程までとは対照的に、地上で会った時のように外套を着てフードまで被っていた。
『リザードマンには、そんな機能があるんですか?』
『そうだよ。それに、リザードマンはグルメだからドワーフなんて食べないの。アキニって君たちが呼ぶ奴は私がグルメだって知ってたみたいだけど?あんた達は馬鹿みたい」
『オイオイオイ!流石に命の恩人とは言え、聞き流せねぇなー。盗賊を怒らせたらどうなるのかって事を身体に教えてやろうか?』
足元の砂を掴み取るとそれが瞬時にナイフの刀身になる。
『砂鉄か?』
『ご名答。傷口から入った砂を脳味噌でかき混ぜてやるから覚悟しておきな!』
アニキ格の男の問いかけにリザードマンの女の子が笑顔と共に答えると、シュロウも自分の獲物に手を掛けようとする。
『武器を納めろ。これ以上、俺たちの立場を悪くするな。お前たち二人が寝ている間に全て終わったんだ』
『はぁー、また俺はあんたを支えられなかったんだな。さて、寝てる間に何を暴露しちまったのか教えてくれ』
『時間は沢山あるんだ。いくらでも話してやるよ。いかに、俺たちがまずい状況に置かれているかを話そう』
鍋で何かを煮込みながら話を進める。
砂漠では気候から住んでいる生き物に至るまで刻一刻と変化している。自分が進むべき道を瞬時に導き出さなければ生き残れないのだが、この地下では時間の流れがゆっくり進んでいるように感じられた。
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