第16話 赤い瞳
第16話 赤い瞳と血抜き
『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』
『お前らどうした?そんなに慌てて。狭いところだと響くんだから、もう少し静かに...』
『ホーネットですよ!急いで逃げないと...』
満足な武器がない中で出会ったならば見つかった時点で命はない。できる行動と言えば、真っ先に脇目も降らずに逃げる事だ。こんな狭い場所では急がなければあっという間に死んでしまう!
『お前らは人に聞いた話をあたかも自分の知識のようにひきらかしその点物事の本質を見る目を養おうとしない。要は楽しすぎなんだよ。これ、触ってみろよ』
二人の子分の手首を掴み、ホーネットの頭に触れさせようとするのだが、全く手が届かない。
『お前ら、このまま両手をホーネットの真下で上げてろよ』
『あ、え?はい。分かりました』
少し離れた所から下に落ちていた石をホーネットが突き出ている天井の砂に向かって投げる。
ボブっと音を立てて砂を巻き上げる。何も起こらなかったが、変化が二人を襲う。
何も起こらないと気を抜いた瞬間にホーネットとの顔の距離が近くなった。
それも、一匹や二匹ではなく無数のホーネットがドサドサと落ちてきた。
『おーい!お前ら生きてるか?』
『なんとか生きてます...走馬灯が駆け巡りました』
『さっき、踏みつけたことは謝りますから勘弁してくだゼェ。死因が虫に潰される圧死だなんて葬儀屋に言いたくありませんぜ』
『これは、俺を小馬鹿にした分。踏みつけた分は後日改めてだな。それよりも何か気がついたことはあるか?』
そう言われて辺りを見回すと異様な事が目に付いた。
『このホーネット、凄い冷たい。もしかして血抜きですか?』
『そう。鹿や猪を狩った後川や土の中に入れて肉が腐らないように温度を下げる。それと同じように土の中で冷やしてた奴の頭が出てきただけだから、騒がなくても大丈夫』
『それは分かりやしたが、これは?どのホーネットにも不自然な穴が二つ空いてますぜ』
『ああ、それは...』
その喋りを遮るように3人の後ろで何か大きな物が落ちてきて砂煙を立てる。
『ねぇ、少しぐらい女の子の荷物を運ぶの手伝ってくれても良いんじゃ無い?』
『蠍を一撃で倒すようなリザードマンを女の子と軽視するわけにはいかないな。それに、両手の荷物を見た限りじゃ助けが必要なんて思えない』
砂煙が落ち着き、改め大蠍を倒した女性の両腕を見ると他よりも二回りは大きいホーネットが引きづられていた。
先程の外套を綺麗に羽織っているのだが、前は全開で、身体のあらゆる部分が最低限の面積の布で守られているのだが、内股には鱗は生えてきておらずヘソの周りも菱形の様な形で白い肌が覗き込んでいる。
首元にも紅い鱗が生えているのだが、顔には全く生えておらず目のやり場にも困らない。
『まぁ、それは置いといて、あんた達の忘れ物も仕方ないから持ってきてあげたよ』
そう言って砂の天井を指差すと背負っていたバックパックと途中で脱ぎ捨てた外套がどさどさと落ちてきた。
『これはありがたい!』
『世事はいいから早く受けとりな。ところで、なんであんたの子分二人はあんなに怯えてるの?』
『一言で言うなら、物事の良し悪しを判断できないからかな』
その一言を聞いてピンとした顔をすると小悪魔の様な笑みが張り付いていた。
『ねぇねぇ?盗賊のあなた達は二人はなんでそん何でそんなに震えているの?』
『だって、あんた!毒をもろともしないぐらいの胃袋を持っていて俺たちを食べる気なんだろ!?砂漠じゃ、迷い込んだ旅人は貴重なタンパク源だろうからな!』
『そんな生優しい事考えるんじゃ無いですぜ!こいつはきっとホーネットよりも強い麻痺毒を体に入れて後から来た毒の感覚をなくしてるんだ!?そんな異常者が、何のメリットも無しに俺たちを助けるわけがない!』
壁まで追い詰められ、二人がガクガクと寄り添い合い震える。
ただ単にリザードマンの少女の方が身長が高いからと言う訳でもなく、勿論女慣れしていなくて貧相な胸元が緩くそれに怯えている訳でもない。
二人の間ではリザードマンの少女が言葉の通り、常軌を逸した異常者だと思っているのだ。
『あらら、こりゃぁ、重症だわ』
『でしょ?俺の子分に本当のことを教えてやってくれない?』
『あんた達が盗賊としてこの砂漠にもう来ないって言うならいいよ』
『分かった。従おう』
苦虫を潰した様な顔で返事をする。
『じゃあ、あんたら二人には少し恥ずかしいけどいい物を見せて・あ・げ・る!』
胸の僅かな谷間に手を入れる様に釘付けになる。
一体何を見せるのか?いい物と言う一言が頭をよぎる。
『ジャーン!コレなんだー?』
そう言って古ぼけてボロボロの一本の犬歯が取り出された。
『え?いい物ってそれ?』
『そうだよ?もっと他のものを期待してた?』
『いや、別に...』
笑い声を殺しながら肩を震わせる様に憤りを覚えながら落胆する。
『これはねー、物凄いんだよー!』
そんな事を言っているうちに音も無く静かにシュロウが地面に倒れて動かなくなった。
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