第18話 寝ている間の出来事
第18話 寝ている合間の出来事
『これで毒は吸い出せる筈。直接吸ったわけじゃないから、吸収に時間はかかるけど後は残らないから』
『手当てまで申し訳ない。贅沢を言わせてもらうと、どこかで休めるような場所を教えてくれると嬉しいんだけど...』
『少しいくと横穴があるからそこで休みましょう』
セシンの傷の手足をすると肩に背負い、その上に手当てするのに脱がせた外套を掛ける。
遅れを取らないようにシュロウを手早く治療し、3人分のバックパックも持ちリザードマンの女の子を追いかける。
暫く進むと洞窟の硬い石壁ををくり抜いて作ったかのような横穴が見え、そこに二人を寝かせる。
『ベースキャンプの準備をするから、うまい料理はそれから作るんでも良いか?』
『いいけど、道具はどうするつもり?バックパックの中に目ぼしいものは無かったけど...』
アニキ格の男が勢いよく外套を脱ぎ、それを地面に広げる。
『取り敢えずは明かりと寝床だな』
外套の内側には目を凝らすと紅い塗料で精細な魔法陣がいくつも書き込まれていた。
そのなかの同じ模様が3つある魔法陣の内、瓶の蓋ぐらいの大きさの物に手をかざす。
『来い!』
掛け声と共に、動物の皮で作られた2組のくたびれた寝袋が魔法陣からウネウネと出て来た。
『出てこい!』
次に翳したのは拳ぐらいの魔法陣。掛け声と共にボン!と音を立ててランプが2組出てくる。
『便利ね。でも、こんなところで沢山の火を使う気?』
『まさか。こんなところで使ったらみんな仲良くあの世行きだよ。だから、こいつを使う』
ブーツの中から鈍い銀色の平べったい物体を取り出す。何かが刻まれているが、擦れすぎて僅かに凹凸があるぐらいだ。
カッチリ
『ほーら、餌だぞ。集まってこい!』
ボタンを押すとそのすぐ横から蝋燭ぐらいの火が出てくる。
暫くすると赤く発光する羽が生えたまん丸の物体が三つ集まって来た。
『光の妖精(ウィスプ)が集まって来た?何そのライター?どんな仕組み?』
『別に?お腹が減ったら食べ物を食べるようにこの妖精たちも光を欲する。暗いところだし、火を主食にするウィスプが集まってくるんじゃないかなー?って思って付けただけ』
そう言って火を消した。名残惜しそうにウィスプがライターの火の回りを飛び回る。
『部屋を照らすのや、調理を手伝ってくれたらまたご飯あげるよ』
その言葉が通じたのか、強く発光すると二匹はランプの中に入り、明かりに。もう一匹は天井をグルグル回っていた。
『ほら、お前はこっちだよー』
石で簡易的なコンロを作るとその中を指差す。
すぐさまそのコンロの中に飛び込み、黄色い火を灯した。精霊の加護で調理するため、普通の火のように二酸化炭素は発生しない。
『後は椅子か』
コンロの周りに外套に刻まれた魔法陣と同じものが書かれた掌サイズの羊毛紙を置き、それと同じ模様の魔法陣に手をかざす。
『出せ!』
ボフっと音を立てて四つの丸太が椅子のように敷かれた。
『これで準備終わり。後は病人を寝かせて...』
『もうやっといた』
声がする方を振り返ると、二人が仲良く並んで先ほど出した寝袋の中で眠っていた。
『じゃあ、調理に取り掛かるよ』
別の魔法陣から鍋を取り出し、シュロウとセシンの外套の内側にも目を通す。
『食材は何を使うかなーってか、色々な食材持って来てんな』
大体の目安を付け、リザードマンの少女の方を見る。
『二人の首に刺した牙はもう抜いても大丈夫?』
『うん。体内の解毒はできてる筈』
二人の首に刺した歯を抜き、少量の血が溢れる。
『その血、この小ちゃい瓶に入れて!』
リザードマンの女の子は小瓶を手渡され、危なく落としてしまいそうになるものの、うまくキャッチし二人の血液を採取する。
『入れられた?』
『できたよ。はいどうぞ』
『どうも』
そう言って受け取るも、頭の中では何を作ろうかしか考えられていないのか目線は外套から外さない。
『ねぇ?その血液何に使うの?』
『俺は自分達の体を媒介にしても低級の空間魔法しか使えない。魔法はそれを設定した本人しか使えないからこうやって媒介に魔術加工を施して陣に本人が行使してると錯覚させる訳。不便でしょ?』
瓶に唾を垂らし自分の情報と子分の情報を混在させて境界を曖昧にする。そして、2人の外套の内側にある収納されている陣に垂らす。
『出ろ!』
その言葉と共に、二人の外套からトマトやニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、袋に入った何かと、包丁や鍋、ヘラなどの料理に使うものが出てきた。
『裏を返せば、外套を奪われても魔法陣の中に入れたものはあんた達3人以外は取り出せない。それに、死んじゃえば魔術ロックが掛かって二度と取り出せない。弱者にしてはよく考えたんじゃない?』
『あれ?魔術ロックの話したっけ?』
『してない。だけど、前にそれに似た魔術を使っている奴をよく知っているから大体予想はつくよ。それより、ご飯まだ?』
『今やってる』
火をかける前の鍋の底に乾いた喉を潤すためにそのまま齧り付きたいと言う欲求を感化させるほど瑞々しく、太陽の光を一杯に受けて育ったハリのあるトマトを敷き詰める。次は玉ねぎの皮を一枚一枚優しく剥いていき、雪肌のように白い表面を露出させ、それを細かく刻んでいく。包丁を入れるごとにシャキ、シャキとした感触と仄かに甘みを持った水分が空気中に蔓延していくのを感じた。ジャガイモは皮を分厚く剥き、ニンジンは一口サイズになるように手早く切って鍋の中に入れていった。
袋の中からはさまざまな色の粉を取り出し、鍋に入れていった。
『中々、手際良いじゃん』
『味はどうか知らないけどな。孤児院に来た不審者に教えて貰った料理だし』
『そんなものを食べさせる気なのか?後はどうするの?』
『後は潰して煮込むだけ』
『じゃあ、その間に知りたいこと聞こうかな。本当のあんた達について』
ジュグジュグになるまで加熱されたトマトを勢いよく潰し、溢れ出た果汁が食材にドップリと浸かる。
仄かな甘さと仄かな酸味。その二つをピリッと辛いスパイスが引き立て部屋の中に満ち足りた香りが充満していた。
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