第13話 信頼
第13話 信頼
赤い外套の内側から原木の様な干した肉を取り出し手に力を込める。
すると、掌から炎が迸り油が水の様に流れ出す。
『危ない!大事な水分が溢れる所だった。』
肉にかぶり付きジャリジャリと音を立てながら美味しそうに頬張っていく。そして、大きな蠍に捕まった者達がどうなっていくのかを観戦する。
『そいつらを離しやがれ!ぶっ殺すぞ!』
蠍に再び突撃し向かっていく。
先程のやりとりを学習していたのか鎌で叩き潰すのではなく大きく開いて体を分断しようとしてくる。
それ単体では躱すのも容易いのだがそこにホーネットの毒針での攻撃でバランスを崩している所を的確に突かれるので対応しにくい。
『クソ!刃毀れが酷い。あと一撃が限度だな。』
獲物を確認すると今にも刃が砕けそうなぐらい摩耗していた。
次の攻撃を避けるため、サイドステップを踏み逃げようとするのだが、避けようとした途中で脚が縺れてしまう。
『砂に足取られたのか!?』
直ぐに抜こうと足を砂の中で動かすのだが、どんどん血が流れなくなっていくような感覚を感じる。
違和感を感じて砂に手を突っ込んだ時にはもう遅い。
砂から蠍の細い尾が脚に巻きつきそのまま蠍の口元で宙吊りにされる。
『お前、尾を砂の中から通したのか?図体が馬鹿でかい割には器用なんだな。』
フッッッッツシャナャャャャャャヤァァァァ!
まるで馬鹿にした言葉を理解したように口元から腐敗した息が出てくる。
『臭いな。あんまり癇癪起こさないほうが良いぞ。短期は損気なりって言うしな!』
抜き身で携えていた小太刀を空中で思い切り振るう。
刀身の峰に埋め込まれた火薬が抜け落ち、蠍の顔面に当たって爆ぜた。
ギャャャャャャャャャャャャャ
痛みで悶えるように悲鳴を上げ、尻尾で掴んでいた物を地面に落とす。
『さて、急がないとな!』
小太刀を腰の鞘に納め砂が蠍が悶える巨体で巻き起こる中脚を掻い潜って落とされた仲間の元に走っていく。
『おか...しら...ごめ...ん』
『あ...りが...とう』
『下らないこと言ってんじゃねーぞ。ブツはまた盗ればいい。髪の毛のない俺はともかくお前たちの黒い髪の毛じゃホーネットを集めちまう。』
『剃り...たく...ない』
『だ...ってダサ...すぎる』
『随分口達者だな!まぁ、いい。すぐに逃げる!』
二人を肩に担ぎ、二人の外套の中から黄色いビー玉サイズの黄色い玉を取り出しそれを空中に向かって投げる。
パチンと弾け辺りに黄色い煙が充満するやホーネットが混乱したのか交錯するように飛び回り、統率された陣形が崩れる。
『相変わらずくっせー!』
目に染みる煙の中から飛び出し、一気に駆ける。
『オッえー!吐きそう。何でこんなきつい匂いにしたんですか?』
『鼻もげる』
『仕方ねーだろ。ホーネットを避けるには肥やし玉が一番なんだよ。それに、この煙にはホーネットの毒を無効化する効果がある。理にかなってんだろ!?』
口早に説明していく内に肩に担いでいる二人の顔色がどんどんと良くなっていくのが目に見えて分かるほどだ。
『でも匂い臭いー』
『乗り心地も最悪で別の意味で信じまいそうですぜ...』
『急に口達者になりやがって!お前らもう走れるだろ?』
『無理無理。体は痺れてますんで早く運んでくだせい』
『後でみてろよ、お前ら!』
愚痴と共に足を素早く砂から抜きまた一歩を踏み出すのを繰り返し前へと進んでいった。
『でも、何で俺たちを助けに来てくれたんですかい?』
『一回は抜け出してたのに...』
『ホーネットの針だよ。比較的簡単に避けられるのにお前らは食らっていた。俺よりも素早いお前らがだ!大荷物で下を俯いてた俺を庇ってお前らが食らったんだと思ったら胸糞悪くてな...』
『そこは仲間だからって臭いセリフ吐いてくださいよー』
『それ期待してたんですけどね』
『うるせー!そんな小っ恥ずかしい事言えるか!馬鹿な事言ってないで蠍がどうなってんのか教えろ!!』
『はいはい。人使いが荒いなー』
そう言って蠍の位置を確かめようとするのだが、砂煙の中混乱するホーネットしか確認できない。
『あれ?大蠍いませんよ?』
そんな事を言っている内に地面が膨れ上がり、走っていたドワーフ達が宙に投げ出される。
『一体何だ?』
『地面が盛り上がってそれから...?』
キョロキョロと見回すと体のあらゆる部分にヒビの入った蠍が真正面にいた。
『お前ら!這ってでもいい!逃げろ!』
『そんな小太刀じゃもう無理です!一緒に逃げましょ?』
『馬鹿野郎!本気で走ったのに追いついてきたんだぞ!俺が殿を務めるから早く行け!』
振り返り、部下にハッパを掛けるとそこには目を疑う光景が広がっていた。
『アンタ、何食べてんだ?』
『ん?おやつだよ』
振り返った先には先程、急に現れた者がおやつを食べていた。
どっからどう見てもホーネットの胴体にしか見えないそれを美味しそうにかぶり付いていたのだ。固いホーネットの外殻など気にしないで、バリバリと口の中で噛み砕きながら美味しそうに食べていた。
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