第12話 リザードマン
第12話 リザードマン
『何だこいつら?砂漠には何回か来てるけどこんな奴ら見た事ないぞ?』
砂漠のありとあらゆる所には様々な生物がいる。 岩の下には水気を好む虫が。
洞窟には蝙蝠が存在し、捕まえて羽を取ったものはタンパク質の補給には最適である。
だが、それはあくまでも普通の大きさの生物の場合。 こんなに巨大な蠍やらホーネットは見たことが無か
った。
『待ってろ!今すぐにお前ら二人を助ける!』
足に力を込め、蠍に向かって走り出す。 ホーネットからは幾度となく毒針を撃ち込まれ服を掠める。
しかし、一々反応していたらいつまで経っても蠍まで辿り着けない。
それどころか、無駄な体力を使ってしまっては十分な攻撃であの装甲すら打ち破ることはできない。
致命傷になり得る毒針だけ太刀で受け流し、刃こぼれを最小限にしながら一直線に向かっていった。 蠍に近づいていくに連れ、数本の尾がブンブンと勢いよく振りまわされる。
『仲間を返しやがれ!』
その言葉に呼応する様に右の鎌が飛んでくる。 蠍に向かう小さな人影。 砂が巻き起こり完全に見えなくなる。
『あ...ニキ...』
薄れゆく意識の中自分を救出しに来てくれた姿に希望を込めていたのだが、暗雲が立ち込めてしまった。 しばらくの間目を凝らし、一粒の希望を探すのだが絶望に満たされるまではほんの一瞬で済む。
ゆっくりと目から一筋の涙が流れていった。 いくら喉が渇いていようが、大切な人を想う涙は枯れる事が無い。 ボブッ! 不思議な音と共に砂煙の一部から小さな影が転がりながら飛び出してきた。
『次は左の鎌か!?』
そう予想した通り、鎌を振りかぶり横を薙ぐ。
『芸がない単調な攻撃だな!』
その攻撃に合わせて飛び跳ねる。外套の内ポケットを探り鎌が足元を掬うタイミングで鎌に黒い玉を投げた。
バッチィイン 今度は空気を裂くような甲高い破裂音が鳴り響き、鎌が地面にめり込み投げた本人は宙に飛んだ。 バランスを崩した大蠍の尾までは飛んで行っても明らかに飛距離が足りなかった。 空中で太刀から短剣に持ち替えた獲物を大きく両手で振りかぶる。
『だめ...だ。とどか...ない』
『いや、これで良い。俺の計算は正しかった!』
一瞬空中で止まる。そのあと体の大きさからは考えられないようなスピードで落ちていく。
『俺たち、ドワーフの体は小さいが頑丈で馬鹿みたいに重い!そんなやつが玉鋼の短剣を持って降りたらどうなると思う?』
物凄いスピードで蠍の頭目掛けて落下していく。 鎌が土に埋まってそれを抜こうと躍起になっているせいで蠍はガードすることなど頭から抜け落ちていた。 ガッキィィィィィィィイン 鈍い金属音が響き渡る。頭の装甲にヒビが入り深々と頭に短剣を打ち立てた感覚があった。
確かな手応えを感じて引き抜くと、そこには刀身がグズグスに砕け散った短剣の柄だけがそこにあった。
『嘘だろ?玉鋼の短剣だぞ!』
何度も何度も打った短剣が蠍なんぞの装甲に負けたのだ。 その事実を信じたくは無い。しかし、目の前に広がる事はいくら否定しようが現実であった。
『ウォ!』
痛みに悶えるようにして体を振り回す。 それに耐えられるわけもなくバックパックを捨てた場所まで戻された。
『畜生!飛ばされた。次はこいつでいくか』
太刀を再び構え蠍を凝視する。 すると、捕まっていた二人が何かを伝えようと口を動かしていた。 それを見るや否や三人分のバックパックを背負い始める。
『いいの?仲間を見捨てて』
その場を去ろうとした時、赤い外套を羽織った長身の者が声を掛ける。
『お前は誰だ?こんなところで何をしている?』
ドワーフの目線から見たら充分長身の者がいつの間にかそこに居た。 しかし、見るからに違和感しか無い。
砂漠を渡ってきたとは思えない程軽装で灼熱とも形容できる太陽光で熱せられた砂の上に平然に立っていた。
『ねぇ?私の質問に先に答えてくれない?先に質問したのは私なんだし』
『答えてる暇ない!急いでここから離れないと...』
そう言ってその場を離れようとするドワーフのずんぐりむっくりとした胴体を持つ男の外套の裾を踏み、足を止めさせる。
『何するんだよ!?うごけないだろ!?』
急いで足の下から裾を出そうとするのだが全く抜けない。
『何で?お仲間はまだ捕まってるよ。逃げるの?何で逃げちゃうの?』
『捕まってるあいつらがそう言ったんだよ!逃げろって!だからこれを持って逃げる!』
大蠍に捕まっている二人のドワーフに視線を向ける。声は聞こえてこないものの、唇を動かして何かを言っている。
『だから、俺は仲間の意思を汲んで逃げる!』
再び足に力を込めて逃げようとすると後ろにバランスを崩して空を見上げる様に砂の上で仰向けになる。
『あっちいい!何するんだ?』
『あれが逃げてに聞こえるなんてね。耳にこの貝を当ててみて』
鋭い八重歯を出し耳をすっぽりと覆える程大きい巻貝を差し出してきた。
『何でそんなことをしなくちゃならない?それに耳を喰いちぎられたらどうするんだ!?』
『強面の癖に意外と心配性なんだ。もし、言う通りにしたら、安全な所まで直ぐに行ける抜け道を教えるって言ったらどうする?』
二人の間に戦慄が走る。今はこの場から1秒でも早く離れて盗んだ物を運びたい。 その為には耳がちぎれてしまうかもしれないリスクを負うがリターンなは比べたら大したことはない。
『約束は守れよ!』
躊躇うことなく一気に耳に巻き貝をくっ付ける。
『しっかり聞いてなよ!』
耳にくっ付けたのと同じ貝を大蠍に投げる。そのまま捕まっている尾っぽの方まで行くと空中でピタリと止まった。 小さい声で途切れ途切れで声が聞こえてきた。
『逃げ...な...い.で.たす...け...て...』
『おね...が...い』
唇を伺うが、どう見ても逃げてとしか拾えない。 どちらが正しいのか分からなくなる。
『何が聞こえた?』
『助けが聞こえた。ここから見る限りじゃ逃げろって言ってるのに何で?』
『あんたが使ってんのは低レベルの暗視スキルだろ?衛生管理も真面にされてない道具屋で眼球にルーンを刻んで誰でも使える様になるやつ。それだと解像度が低いから自分の都合の良い様に解釈したんだろ?』
『何でお前にそんなことがわかるんだ?』
『わかるよ。だって、子分二人のバックパックを奪った時から見てたし。あんた、短気で待てないタイプだろ?仲間だって直ぐに切り捨てるタイプさね。でも、捨てて逃げる。その判断は合理的だよ。約束通り、抜け道を...』
『そんなもんいらねぇよ』
『ん?』
さっきまで一刻も早く逃げようとしていたのに、今ではその気すら見えない。
『俺は確かに短期で飽きっぽい。だけどな!仲間に助けを乞われて合理的に逃げ出せる程人格が出来てる訳じゃねーんだよ!』 地面に固定された外套を脱ぎ捨て鍛治職人を連想させる腰巻や油塗れの重装備でパックバックまでもを落として蠍に向かっていく。
『あーあ、行っちまった。ドワーフ単体で勝てる訳無いのにな。まぁ、熱いのは嫌いじゃない』 ドワーフが脱ぎ捨てた外套から足を退ける。
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